しらたき
戸を開けるとベランダの床でクマバチがジタバタしていた。反射で思わず戸を閉めたけれど、部屋の中から観察してみるに様子がおかしい。右の羽の自由が利かないようで、目いっぱい羽を動かしても数センチ浮くのがやっとで、すぐにバランスを崩して床にひっくり返ってしまう。自力で起き上がるものの飛ぼうと羽ばたいてはまた床にひっくり返り、終いには疲れて起き上がることを諦めてしまっていた。
困った。ベランダから脱出できないようだし、このまま見て見ぬふりをするのも心が痛い。戸を開け、恐る恐る割り箸でクマバチをコロンと起こしてみると、こちらに襲い掛かってくる様子もなくよたよた歩き回っている。
『クマバチ生態』で検索して驚いた。温厚な性格で花粉を食べると書いてある。体も大きいし羽音もすごいので、てっきりスズメバチに近い存在なのかと思っていた。しかも、ベランダにいるこのクマバチは針を持たないオスらしく、顔に黄色い模様がある。それを踏まえて見てみると、クリっとした大きな目、黒い体に黄色い胸毛、丸っこい体からフサフサした足。急にかわいい存在に思えてきた。
いつからここで飛べない状態なのか分からないので、まずは食事だよね!と、急場しのぎにティッシュに砂糖水を染み込ませてクマバチの顔の前へ置いてみる。少し遠慮気味にティッシュの端を吸っている様子ではあったが、ひとまず生きる気力があるのだとホッとした。
とはいえ、砂糖水だけで花粉から得られる栄養が補えるか疑問だったので、急いでホームセンターへ行ってみる。が、花粉そのものは売っておらず花を数点買って帰ってみることにした。しかし、いつまで経ってもそれに興味を示すことはなかった。
花粉がダメとなると他には…。ふと台所に目をやると、棚の蜂蜜に目が留まる。なんで気づかなかったんだろう。原材料花粉といっても過言ではないというのに。
早速綿棒の先に蜂蜜をつけてクマバチの口元へ持っていくと、明らかに反応が違う。それはもう無我夢中に吸って、綿棒の先が元の白色に戻ろうかという程だった。おかわりまで平らげると満足気に足で顔や羽を手入れし、飛び立とうと意気込むもののひっくり返ってジタバタ。その姿に、また割り箸で助けながら安堵と愛おしさが込み上げた。
毎度蜂蜜を嬉しそうに食べる姿が印象的で、ミツバチが一生懸命作った蜂蜜が小さな命を旬余繋いでくれていたと、あの日々のことを思い返す。
(完)
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