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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

母の魔法と、黄金の一さじ

The Poemarist

冬の朝、窓に白い結露がつくようになると、決まって思い出す光景がある。幼い頃、風邪をひいて布団の中で丸まっていた私の元へ、母が運んできてくれた「魔法の飲み物」のことだ。

「これ飲んで、ゆっくり休みなおさい」

母が差し出したカップからは、甘酸っぱい、どこか懐かしい湯気が立ち上っていた。それは、母が台所で丁寧に作ってくれた蜂蜜レモンだった。カップの底に沈んだ黄金色の蜂蜜をスプーンでそっと混ぜると、冬の柔らかな日差しを透かして、液体がキラキラと宝石のように輝く。一口飲むと、喉の痛みがじわりと溶け出し、冷え切った体だけでなく、不安でいっぱいだった心まで温まっていくのを感じた。

当時の私にとって、蜂蜜は単なる甘い調味料ではなかった。それは、母が私の不調を治すために選んでくれた、特別なお守りのような存在だった。熱いお湯に溶けていく黄金色の糸を見つめながら、私はいつも、母の愛情そのものがその一さじに凝縮されているような気がしていた。

大人になり、自分で体調管理をするようになってから、私はふとしたきっかけでミツバチの生態を知ることになった。一匹のミツバチがその一生をかけて集める蜂蜜の量は、わずかティースプーン一さじ分だという。その衝撃的な事実に、私は思わず言葉を失った。

あの日、母が私のためにカップに注いでくれた一さじは、何百、何千というミツバチたちが命を懸けて集めてきた「命の結晶」だったのだ。そう思うと、今まで以上に蜂蜜という存在が愛おしく、尊いものに感じられた。母がいつも蜂蜜を大切に、最後の一滴まで使い切っていた理由が、ようやく分かったような気がした。ミツバチが自然の中で懸命に働き、養蜂家の方々がそれを大切に守り、そして母が家族の健康を願って食卓に並べる。蜂蜜は、そんな無数の「誰かの想い」が繋がって届くギフトなのだ。

今、私の家の台所にも、黄金色の蜂蜜の瓶がある。かつての母のように、私も疲れた家族のために、あるいは自分へのご褒美に、そっと瓶の蓋を開ける。スプーンですくい上げた時の、あのとろりとした重みと、ふわりと広がる花の香り。それは、忙しい日常の中で忘れかけていた「心の余裕」を取り戻させてくれる瞬間でもある。

これからも私は、この黄金の一さじを大切に味わっていきたい。ミツバチたちが運んでくれた自然の恵みと、母が教えてくれた温かな記憶に感謝しながら。

(完)

 

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