びわしゅ
強いこだわりによる、極度の偏食、そして少食。
3歳児健診で体重が少ないことを指摘された後、紹介された小児科医からはそのような指摘を受けた。
我が子が米飯しか口にしなくなったのは、ちょうど1歳3か月を迎えた日だ。それまで食欲は旺盛で、なんでもバクバクよく食べて、食べムラの悩みなどまったくなかった。それが突然、どの離乳食も一切口にしなくなった。
動揺と心配に支配されながら、食卓にあらゆる種類の小皿を並べては手付かずのそれらを下げる日々。これが何年も続くとは、まだ思いもしなかった。
「何なら食べれるだろうね」
抱っこ紐の中、我が子はふにふにと幸せそうに目を細めている。春が過ぎ、夏が過ぎ、むちむちだった赤ちゃんの体躯は、日を追うごとにすらりと手足の伸びる細い幼児へと変化していった。私は保健師をはじめとするありとあらゆる相談機関に電話し、通い、受診した。『こどもが食べる』と銘打たれた料理本を買い、片っ端から作っては、微かな希望を毎度打ち砕かれていた。
白いご飯以外のすべてを拒否すること一年半。とうとう小児科医からの指摘と相成った。
「手作りにこだわる必要なくて、食べるならなんでもいいんですよ。なんでも。果汁も飲ませてもいいし、お菓子も食べさせたっていい。この際蜂蜜でも、チョコでもなんでも」
ジュース。蜂蜜。チョコレート。考えたことはあったが「まだ早い」と思っていた。でも今はそんなことを言っている場合ではないらしい。
小児科の帰り、子供を自転車の前カゴに乗せ、スーパーで蜂蜜と黒蜜、それに3枚切りの食パンを買って、川辺のサイクリングロードへ寄り道した。桜舞うピクニック日和だった。子供は「おにーに?」とおにぎりを食べるつもりで手を出してきた。私はその手に食パンを渡した。いぶかしむ子にちょっと待ってねと声をかけ、使い切りの蜂蜜を開け、絵を描くように食パンに垂らす。とろりと金色に輝く美しい液体。こんな豊かな食べ物にも興味を示さなかったら、悲しくなってしまうなと思った。
「おにーに、なの!」子供は果たして、それを拒んだ。私はおにぎりを取り出し、蜂蜜パンを頬張った。甘さに涙があふれそうだった。これもね、おいしいよ。私はできるだけ笑顔で伝えた。
そんな食べムラに悩んだ日々も、時が来て突然終了と相成った。私の努力と無関係に、彼はどのみち食べなかった。
多忙な小学生になった彼は朝、慌ててベッドを出て叫ぶ。
「朝ごはんは、ゴールデン・ハニー・食パンね!」
あの春の川辺の光景が、かくして毎朝脳裏に弾ける。飲んだ涙のほろ苦さと、蜂蜜のすがすがしい甘さとともに。
(完)
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