こばやしきよ
子どもの頃、風邪をひくと、母がよくあたたかいレモネードを作ってくれた。レモンを絞り、はちみつを垂らしてお湯を注ぐ。腫れた喉にはピリピリと刺激が強かったが、甘ずっぱいレモネードは、ほてった体にしみわたって、元気になれるような気がした。
「はちみつ」というと、そんなレモネードのイメージだけだった。
それが覆されたのは、叔母の家へ遊びに行ったときだ。
連絡もせずに突然訪れたので、子ども用のジュースなどは用意していなかったのだろう。
叔母は、カップにお湯を注ぎ、そこにはちみつを垂らして持ってきてくれた。
「これ、何?」
「はちみつのお湯よ」
「レモン入ってないの?」
「入ってない」
はちみつを入れただけのお湯だなんて……心の中で「えーッ」と思ったが、飲んでみてびっくりした。
「おいしい」
「でしょ?」
優しい甘みの中に、砂糖とは違う、ほのかな香りがある。
はちみつって、こんなにおいしかったんだ……。
それからの私は、はちみつのとりこ。トーストにぬったり、ヨーグルトに入れたり、ビスケットにつけてみたり。大人になると、はちみつ漬けやはちみつ煮など、料理にも活用するようになった。
やがて母になった私は、幼い娘が風邪をひいた際、レモネードを飲ませようとした。風邪といえば、やっぱりレモネードだろう。
しかし、娘はレモンはすっぱいから嫌だと言う。
そこで思い出したのが、叔母が作ってくれた「はちみつのお湯」だ。
私は、カップにお湯を注ぎ、そこにはちみつを垂らして娘に差し出した。
「これ、飲んでごらん」
「すっぱいの?」
「レモン入ってないよ」
娘は、恐る恐るカップに口をつける。
ひとくち飲むと笑顔になっていた。
「おいしい」
「ふふふ。でしょ。はちみつは体にいいのよ。風邪なんか、すぐに治っちゃうよ」
それからというもの、娘が風邪をひいたときには、決まって「はちみつのお湯」を作るようになった。
すっかり気に入ったのか、風邪をひいていないときでも時々「ママ、はちみつのお湯が飲みたい」なんて、リクエストされるけど。
はちみつとお湯だけなんて、シンプル過ぎるけど、はちみつだけのおいしさを味わえる、ぜいたくな一杯かも知れない。
そんな「はちみつのお湯」は、今では、すっかり我が家の定番だ。
(完)
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