長井友美
「紅茶飲む?」
時刻は22時過ぎ。ほとんど毎晩、私は旦那にそう問いかける。
というのも、以前一人分だけ紅茶を淹れて飲んでいたら、
「自分の分しか淹れないのな」
と呆れたように言われてしまったから。
子供の寝かしつけや幼稚園の準備、すべての家事がひと段落ついた22時。
紅茶を飲んで一息つくのが、私のささやかな楽しみだ。
「うん、もらおうかな」
先ほどの問いに、旦那が顔も上げずに答える。
夢中になっているのは、大抵スマホゲーム。
正直、紅茶を淹れるのは手間がかかるし、そんな態度で頼まれると少しイラっとする。
でも、そこで不満を口にして波風を立てるのはナンセンスだ。
「わかったよ」とにっこり笑い、キッチンへ向かう。
紅茶は決まってアールグレイ。
カップに半分ほどお湯を注ぎ、ティーバッグを入れてレンジで1分温める。
さらに牛乳を7分目まで加え、もう1分温める。
最後にティーバッグを取り出し、たっぷりのハチミツを入れる。
このハチミツは、いつもの大容量のものではなく、国産のちょっといいハチミツ。
気軽には使えない、ご褒美ハチミツだ。
そんな特別なハチミツを、自分のカップには気持ち多めに入れる。
だって、ご褒美だから。
朝から晩まで家事に仕事に頑張った私は、存分に甘やかされるべきなのだ。
このとろけるような甘さは、一日の疲れをそっと溶かし、
明日を元気に過ごすための活力になる。
「美味しい?」と聞くと、旦那は「うん」と顔も上げずに答える。
(彼にはご褒美ハチミツじゃなくて、いつもの大容量のハチミツでよかったな)
――ほとんど毎晩、そう思う。
それでも、彼も彼なりに一日を頑張ったのだろう。
だから今日も、ご褒美ハチミツを入れてしまう。
きっと、心の奥底では、彼のことも甘やかしてあげたいと思っているのだ。
(完)
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