岩隈 大介
昭和三十一年に生まれたわたしは子供の頃から病弱気味で両親を悩ましていたそうだ。
わたしの家は、小さな電気店を営み、父は毎日商品の配達に、母は毎日店の接客に追われていた。忙しかったからあまり面倒をみてあげられなかったと話す両親だったが、そんな身体が弱かったわたしを助けてくれたのは蜂蜜だった。学校や遊びから帰ると、店内で接客中の母とお客さんに向け、頭を下げながら小さな声で「ただいま」と声をかけ、店内奥の扉を開け台所に入るとテーブルにはいつも何かしらのおやつが置かれていた。そんなおやつの中で大好きだったトーストと蜂蜜。
「熱々のトーストに蜂蜜をたらして食べると美味しい」と友達から聞いて、その事を母に言って、我が家のおやつの一員になった『パンと蜂蜜のハーモニー』
わたしはトースターに差し込んだパンが飛び上がる光景が面白くて、飛び出したパンをもう一度トースターに差し込み、焦げ気味の熱々の食パンにスプーンですくった蜂蜜を目の高さの位置から細く糸のようにパンの表面に落として食べるのが好きだった。
蜂蜜の瓶を左手に右手にはスプーンを持って「ポン」と出来上がったパンに色々な模様を付けて食べるパン。
パンの表面に塗られた蜂蜜はドロドロから少しパリッとしてくる。自分で作った特製蜂蜜パンは実に美味しい。
ある日、蓋を閉め忘れた蜂蜜の瓶に、床下の隙間からやって来た蟻の大群が押し寄せて瓶全体が真っ黒になっていた事があった。
わたしの「うぁー」と大きな声に驚いた母が店から駆けつけ「なにやったのよ、蓋をしっかり閉めないからよ」とあきれ顔。
その日の夕食時、しょげているわたしに父が「蟻さんも美味しいと思うんだから、蜂蜜は本当に美味しいんだよな」と食卓は笑いに満ちていた。それから蜂蜜を食べるときはしっかりと蓋を閉めることを子供心に学んだ。
『パンと蜂蜜のハーモニー』はわたしの大好きな食べ方です。
(完)
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