西村歩記
口内炎ができた。またかと思う。その小さな白い傷はしゃべることも食べる事も億劫にさせる。しかもそれが10日ほど続く。
どうかこの痛みを知ってくれ!あわよくば誰かに移ってなくなって仕舞えばいいのにと何度思ったことだろうか。
僕は小さい頃から口内炎ができやすかった。なんでかわからないけれど。きっと噛み合わせでも悪いのだろう。小さい頃に母親に口内炎ができたと伝えると、「悪いことばかりしてるかできるの」と言われた。だから僕は随分と大きくなるまで本気でそう信じていた。
小さい頃なんて我慢ができないものだから、それこそ蜂に刺された後みたいにワーワー泣いていたらしい。そうしていると同居していた祖母が降りてきて事情を聞いてくる。口内炎ができたと伝えると「よくできるねー」と柔らかい声を出しながら自分の部屋に行き蜂蜜を持ってきてくれた。銀の蓋にガラス瓶!そして不思議な形をした木のスプーン。中には金色に光る蜂蜜。僕はこの瞬間が好きで大抵笑うのだけれど、そうするとやっぱり口の中が痛んですぐにしかめっ面になった。
祖母はとても上手に蜂蜜を掬った。スプーンを突っ込んでクルクルと回す。垂れていた蜂蜜がまとまって金色に光るスプーンが出来上がる。僕が指を差し出すとそこにトロリと蜂蜜を垂らした。ほんのりと冷たい。
「したっさきに乗っけてキズのとこにつけるんだよ」と祖母は言う。
僕はその通りにする。口の中に甘い蜂蜜の味が広がる。美味しい!口内炎も膜ができたようになり、痛みも和らいだ気がした。名残惜しそうに最後にもう一度指を舐めると、また甘さが広がっていった。祖母はその間に湯呑みにお湯を注ぎ蜂蜜のついたスプーンでかき混ぜた。ほんのりと黄色く染り甘い香りがする。なんとも美味しそうで毎回飲ませてと言うのだけど、「さっきのが流れちゃうでしょ、これはばあちゃんのもの」と言い飲ませてはくれなかった。
おっと痛みでぼんやりとしていたらこんなことを思い出していたのか。
早く蜂蜜を取りに行かなきゃ。蓋を開けると変わらぬ蜂蜜の甘い香りに目の前の空気が小さく華やいだ。
(完)
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