拝田 資子(はいたもとこ)
思えば、こどもの頃から蜂蜜のでっかい瓶が我が家の食卓につねに、どおんとあった。毎日のものだから、その消費量はすごいものがある。父親は食後にお茶を飲むとき----緑茶、麦茶、紅茶、珈琲、白湯、それがどんなお茶であっても必ず蜂蜜をひとさじ入れていた。ごくたまに、輝かしい桐の箱にはいったロイヤルゼリーが冷蔵庫にあり、惜しげもなくパンに塗ったりもしていた。
「蜂蜜は健康にええんや」が口ぐせで、父親がそもそもそんな蜂蜜健康伝道者だから、あたしが「お腹が痛い」といえば、「蜂蜜でもなめとけ~」となるし、冬のこんな時期、乾燥して唇がばきばきにひび割れると、「蜂蜜でもぬっとけ~」となる。これが効くんである。父は92歳で大往生するまで、確かに健康だった。
また台所に立つ母は戦前の生まれらしく、まっ白砂糖派であったが、料理の仕上げや整えには必ず蜂蜜が登場。なんせ蜂蜜は高級品。おいそれどばどばとは使えない。母にしてみれば「ここぞ」のキメの、勝負調味料であり、「おいしくなぁれ」の、家族を気づかうやさしい気持ちの、ひとさじでありふたさじである。
さて、あたしもまたそんな父母の影響もあってか、蜂蜜をこよなく愛する常備派だ。これといって使う蜂蜜を決めているわけではないが、買うときはまじりっけのないその土地土地の純蜂蜜を必ず選ぶ。小瓶であっても、結構なお値段だけど、父親にならい、その効能を疑うことがないので選択に迷いがない。
たまさか遠出して田舎の市場へ出向くと、まず蜂蜜を探す。あるところでは地産の蜂蜜が棚にずらっと並び、うやうやしくライトアップされている。その何ともいえない色のグラデーションがきらきらと、それはそれは美しく、いかにも美味しそうだ。土地柄やミツバチの個性をあらわすように、赤茶や金茶、黄金色……、いろんな色それぞれの味を楽しめる。どの地産のものも、ミツバチが勤勉に飛び回って花畑から拝借してくる、自然の贅沢だ。感謝しつつ、今日もいただきましょう。
(完)
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