グンパツ
蜂蜜はとても美味しいのだが、問題が一つだけある。使う時にとても時間がかかるのだ。トーストやアイスクリームにチューブから直接かけるにせよボトルからスプーンで受けるにせよ、流れ落ちるのが少し切れるまで待たねばならない。昔はこれが気に入らなかった。
最近スーパーの棚でどれを買おうかと選んでいたら、お婆さんが来た。その人もどれにするか考えるようだ。そのうち彼女と何となく蜂蜜についておしゃべりした。他のものを付けるよりも、蜂蜜が断然美味しいという点で意見が一致した。
「特に香りがするわけではないんだけど、いいわよねぇ」
「蜂が香りに満ちたところを飛んでいたはずですけどね」
「色も何だか食欲を刺激するわ」
「クマのプーさんが蜂蜜まみれになってる映画を見たら、自分も食べたくなって買いに行ったことがありますよ」
「あれ、いいわねぇ。最高の気分って、あぁいう状態なんでしょうよ」
「でも、使う時、なかなか作業が進まないのがちょっとね」
「あら、そうかしら」
「気になりませんか」
「私、こう思ってるの」
彼女の話はこうだった。ミツバチは大体巣から三十メートルから五十メートルの範囲にある植物から蜜を採集する。そこに向かう速度はおおよそ秒速七秒だ。一回の採集量は三十ミリグラム程度。それで五百グラム入りのチューブを完成させるまでにどれぐらいの時間がかかるのかを計算してみたことがある。
採集に一往復で十二秒。一日十回ぐらい行くので一日に百二十秒。
チューブに詰める量を集めるのに必要な回数。五百グラム(五十万ミリグラム)÷三十ミリグラム=一万七千回。
一本のチューブを完成するのにかかる時間。百二十秒×一万七千回=二百四万秒=五百六十七時間。
驚いた。花まで遠ければもっとかかる。
「そんなに」
「でしょう? だから、私たちも少しぐらい時間がかかっても待たなくちゃ」
その話を聞いてからはスプーンから流れ落ちる蜂蜜を眺めながら、
「チューブ一本、瓶一本作る時間と比べたら、こんなの大した時間じゃないんだよな」
と思うようになった。
ミツバチがそれだけも時間をかけて集めてくれたものを、短時間で食べてしまっては申し訳ない。蜂蜜製造業者も、ミツバチの集めたものからチューブや瓶に詰めるまで色々な作業をしてくれているわけだから本当はもっと時間がかかっている。
蜂蜜って、時間のかたまりみたいな食品なのだ。もっと慈しんで食べたいと思う。
(完)
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