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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

桜拾い

合田敦紀

 

 蜂蜜が好きだ。多分、クマより蜂蜜が好きだ。実際に花から蜜を採取して回った事さえある。あれは小学生3年生の時の事だった。
 僕の友人に兎に角理科の得意な奴がいて、教室で出される先生の問題なんかを聞かれる前に答えてしまう様なちょっとどうしようもないくらい変な奴だったのだが、席が近いものだから当然と仲良くなって、当時も今も親友と呼んで憚らない仲である。僕らはその昼休み、3DSの新しいソフトが欲しくてお金を稼ぐ方法を考えていた。それも一種の楽しい遊びではあったけれど、彼はとっておきの方法を教えてくれた。
 スギの花粉を集めるのだ。花粉症は年々過酷さを増すばかりで、医薬品開発の現場ではアレルゲンのサンプルに高値でスギの花粉買い集めるのだと言う。
 「1gで金より高い」
 彼はそっと秘密を打ち明けると、でも純粋でなくてはいけない、と付け加えた。生命科学分野を専攻する今でこそこの純粋さが酷く難しい──ほんの埃一粒許容できない──と分かるのだが、当時の僕らにはどうしようもない金儲けの話であって、更に付け加えて言うには、桜の蜜はいやまして高値で取引されるらしいので、これを試さない手はなかった。
 と言う訳で僕らは桜の花の蜜を集める事になった。ドウダンツツジの蜜吸いの要領でチュウとやってみたけれど、砂糖水を薄めたみたいな仄かな甘味ばかりで、まさか蜂蜜のあの濃厚で喉が焼けるばかりの強烈な味には程遠かった。それでもどこか癖になるのは同じで、近所の公園と学校中で桜の木を見つけては花を掻き集めた。
 さて、蜜を採るのは骨が折れた。というのも、いざ蜜を集めようたって、僕らの持っていた理科室のスポイトではあまりに太過ぎたし、まずもって花の一つが大変小さいのでどれだけ頑張っても1mlすら集まらない。更に桜の木に登って足を滑らせ、文字通り右腕の骨を折る結果になった。
 僕らが両親から叱られたのは言うまでもないのだが、担任の先生にも叱られて、ついでに理科の先生にもたっぷり怒られた。スポイトを勝手に持ち出したのが悪かった。ただ、理科の先生だけは僕らの着眼点に随分と感心して「それじゃ食べてみるか」なんて桜の蜂蜜を買ってきてくれた。
 蜂蜜の味が花の種類によって変わるなんてこの時初めて知ったし、桜の味があんなにも爽やかだとは知らなかった。僕らはあの苦労だらけの蜜採取を思い出してミツバチ達に敬意を捧げると共に、今でも時折二人でパンケーキを頼んでは、自然の甘味に舌を打つばかりだ。
 いつかリベンジしたい、とも思っている。

 

(完)

 

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