逢坂志紀
朝、目を覚まして歯磨きをする。その時にはもう気持ちがしあわせのひとさじに向かっている。そんなに穏やかな朝ではない。トイレに行きたくて半ダッシュしながら階段を降りて、手を洗い終えると目やにだらけの目を鏡の前でこすってしまう。
でもそんな寝ぼけた体と精神にうってつけの良薬がしあわせのひとさじなのだ。
部屋に戻って人から譲り受けたロッキングチェアに腰をかけて木製のスプーンをビンの中につっこむ。とろ~りとした黄金の輝きに目も心も奪われる。朝いちばん、そして寝る前の歯磨きをしたあとに僕は毎日蜂蜜を口にする。
しあわせのひとさじの正体は蜂蜜だ。きっかけは僕の通う珈琲店のオーナーさんが朝晩の蜂蜜を勧めてくれたことだ。
僕はどうやら凝り性のようで、買って行ったその日から朝晩蜂蜜を口にしている。朝起きぬけに蜂蜜ではじまる幸福感、夜すべてを終えたあとに蜂蜜で終える幸福感、これはぜひすべての人に味わってもらいたい。
朝の蜂蜜を口に含んで口の中で広げて、少し自分の体温に近づくまで味わう。それから飲みこむ。ふわっとしたやわらかな蜂蜜の香りと味は今日も一日をがんばろうという元気と活力の源だ。
一方夜の蜂蜜はご褒美だ。今日も一日よくがんばってくれたね。自分に対してそんな思いでひとさじをあげる。ベッドに横たわると「これで細胞にも蜂蜜が行き渡って明日も元気~!」と声をあげるのだ。最高の瞬間だ。
朝に必ずすること、夜に必ずすることがあるというのはどこか自分の中にリズムを生んでくれる。これがないと一日がはじまらない、終わらないというある意味で儀式のようなものかも知れない。蜂蜜は僕の一日のはじめと終わりの大切な時間を演出してくれる。
そのしあわせのひとさじによって得ることのできる健康効果は数知れないらしい。僕はそのひとつひとつを覚えてはいないけれど、先日39.5℃の熱が出たことがあった。夕方の六時くらいから急激に熱が上がって、それでも食い意地は張ってご飯を食べようとしたのだが一切食べられなかった。食べたいのに食べられなかったことで気落ちしてドッと疲れた僕を救ったのが蜂蜜だった。
食べられなかった不安を抱えていると蜂蜜のことを思い出した。部屋の棚から蜂蜜を取り出してひとさじ口にした。するとふと目を覚ました夜中の三時には平熱に戻って翌日からけろりとして僕はすごすことになった。蜂蜜の威力たるやすさまじい。
健康にいいからそれも理由なのだけど、しあわのひとさじではじまる朝と終える夜を味わってしまうともう戻れない。僕はこれから蜂蜜にどっぷり浸かって生きるのだ。
(完)
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