松本俊彦
いつの頃からか、朝はパン食になった。妻と食パンを半分ずつ。それとバナナが一本ずつ。正月の雑煮以外は、一年を通してそれである。ただし、パンに塗るものは日替わりである。こちらが何も言わなくても、妻が思いついたものを塗ってくれる。いちごジャムあり、マーガリンあり、ピーナッツクリームあり、シュガートーストあり。そして、時折ハチミツもある。特に決まりはなく、本当に妻がその日のフィーリングで塗ってくれるのであるが、何かしら意味があるようにも思える。なんとなく私が仕事で行き詰っているように見えるときにはハチミツが多いように思う。私の仕事は、電子機器の開発である。仕事は何でも簡単ではないが、やはり最もプレッシャーを感じるのは納期である。ゆっくりのんびりなら誰でもできる。それを速くやらなければならない。速くやったからと言って、もちろん品質を下げてはいけない。家には仕事を持ち込まない主義だし、そうしているつもりだが頭の中では仕事のことを考えているので、おそらく顔にも出ているのだと思う。よく、疲れたときには甘いものがいいと言うが、プレッシャーに潰されそうになっている顔を見ても、甘いものがいいように思うのだろうか。甘いものと言っても、他にもいろいろある。さっき書いたいちごジャムだってピーナッツクリームだって。しかし、ハチミツの甘さは私も特別なような気がしている。他のものより一段上等のような気がする。ハチミツを食べると、確かに体に栄養が補給されたような気になる。おそらく本当にそうなのだろう。そして、またがんばって働こうと思う。そしてなぜか、いつも納期には間に合う。どうやら世の中はそういう風にできているものらしい。会社で集団で仕事をしていると、助けてくれる人もいるし、自分ではとても思いつかないアイデアを出してくれる人もいる。妻や同僚に支えられて、何とかやっている。昨年、定年を迎え、今は同じ会社でシニア社員として働いている。だから、もうしばらくは食パン半分とバナナの朝食が続く。シニア社員になっても仕事の内容は変わらない。だから、納期のプレッシャーも変わらない。どうやら、まだ数年はときどきハチミツに助けられる毎日が続きそうである。
(完)
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