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蜂蜜エッセイ応募作品

父とはちみつ飴

ななつ星

 

 父は昔からはちみつ飴が大好きだった。
 口が寂しくなると、はちみつ飴をよく舐めていた。まるで子どものように嬉しそうに、時にはペチャペチャと音をたてながら、大事そうに舐めていた。
 実家に帰ると、父の部屋のテーブルには、はちみつ飴の入ったガラス瓶が置かれていて、窓から差し込む光にキラキラと輝いていた。私や孫たちに「飴食べるか?」「持って帰るか?」と言ってはガラス瓶からはちみつ飴を取り出して、手のひらにのせてくれた。
 一年ほど前に父が倒れて入院した。肝膿や胆のう炎で絶食を強いられた。父の見舞いに行くと「はちみつ飴が食べたい。 飴なら食べれるか先生に聞いてみて」と私に訴えていた。
 その後入退院を繰り返しながら、日に日に弱っていく父を、実家に訪れる度に実感していった。相変わらずはちみつ飴の入ったガラス瓶は置かれていたが、寝ている時間が多くなったせいか、飴の減りは以前よりも少なくなっていると母は言った。
 それでも実家を後にする時は、父はいつも「来てくれてありがとう」「車の中で舐めていきな」と飴を勧めてきた。
 覚悟はしていたものの、昨年末、父が息を引き取った。「一年間本当によく頑張ったね。今までずっとずっとありがとう。」もうその言葉しか出てこなかった。
 棺の中にはもちろん父の大好きだったはちみつ飴を入れた。きっと美味しそうに笑顔で舐めてくれるにちがいない。
 年が明けて実家を訪れた。いつもよく来たねと笑顔で迎えてくれる父の姿はもうない。初めて父がいなくなったことを思い知らされた。父の部屋には主人を失った空っぽのガラス瓶がポツンと置かれていた。今度来るときは、はちみつ飴を買って持ってこよう。そしてガラス瓶に入れて父に好きな時に食べてもらおう。

 

(完)

 

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