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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜の魔法

諸木 蓮

 

 大学受験に向けた勉強漬けの毎日は、苦くて味気ないものだった。夜遅くまで机に向かい、朝になれば眠い目をこすりながら参考書をめくる。試験が近づくにつれて心は焦り、日々の疲れがどんどん蓄積していった。そんな私の生活に甘い一筋の光を与えてくれたのが、蜂蜜だった。
 きっかけは母が何気なく言った一言だった。「勉強してると疲れるやろ?蜂蜜は脳のエネルギー補給になるんやって」。そう言いながら、母はキッチンでホットミルクに蜂蜜を一匙垂らしてくれた。蜂蜜がスプーンから糸を引くように溶けていく様子を見ていると、それだけで少し心が落ち着いた。
 初めて飲んだ蜂蜜入りのホットミルクは、ほのかに甘く、温かかった。まるで疲れた体と心をそっと包み込んでくれるようで、ほんの数分前まで苦手だった数学の公式が、少しだけ優しく見えた気がした。それ以来、私は夜の勉強の合間に、蜂蜜を使った飲み物を飲むのが習慣になった。
 受験期には、思うように成績が伸びず、自分に自信を持てなくなることが何度もあった。特に直前期には「本当に自分は合格できるのだろうか」という不安が頭を離れず、何をしても集中できなかった。そんなとき、母が台所で作ってくれる蜂蜜ミルクは、ただの飲み物以上の意味を持っていた。それは、私を見守り続ける母の優しさであり、「頑張れ」という無言のエールだった。
 受験当日の朝、母は特別に「味変わったのわかる?」と言って、いつもより良い蜂蜜を使ったトーストを出してくれた。その蜂蜜は深い黄金色で、口に入れるとまるで花畑を駆け抜けるような豊かな香りが広がった。緊張してほとんど食欲がなかった私も、甘さに背中を押されるように食べることができた。最後に母は「大丈夫、自信を持ってがんばれ」と笑顔で送り出してくれた。
 試験が終わり、結果が発表されたとき、私は家族とともにその知らせを受けた。合格を喜ぶ母に「おめでとう」と言われた瞬間、それまでの苦労が一気に報われた気がした。その日、母はまた蜂蜜トーストを作ってくれた。「この蜂蜜、やっぱり美味しい!」と言う私に、「あんたが頑張ったからよ」と母が答えた言葉が、今でも心に残っている。
 合格発表が終わり、大学生になる準備をしている今でも、私は蜂蜜ミルクを毎日飲んでいる。疲れたとき、気持ちが沈んだとき、蜂蜜をスプーン一杯口に運ぶと、受験期の日々がよみがえり、頑張る力をもらえる気がする。甘いだけではない、少し花の香りや深みを感じるその味は、苦くて辛かった受験の記憶と、それを支えてくれた母の愛情の象徴なのかもしれない。
 蜂蜜は、ただの甘味料ではない。それは私にとって、頑張り続けるためのエネルギーであり、支えてくれる人の存在を思い出させてくれる魔法のようなものだ。これからどんな道を歩んでも、この味とともに受験期の教訓を胸に胸刻みながら、少しずつ前に進んでいきたい。

 

(完)

 

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