新田ミキ
これほどギャップが大きいものがあるだろうかーー。
***
小学4年生で越してきた団地には、どこにでもあるような公園があった。ブランコに滑り台―――いわゆる"定番メニュー"が揃う。
近所には同年代の友達がいた。男女問わず皆仲が良く、学校から帰宅すると自然と公園に集まるような毎日。何をするわけでもなく、学校が終わると当たり前のように集まっていた
近くには小さな林のような場所があった。草がボーボーと生い茂っている。
公園に飽きた小学校5年生の初夏のこと。背丈ほどある雑草をかき分けた先に秘密基地を作った。私たちだけの秘密の場所。何があるわけではないのだが、その空間にワクワクした。
「あなたはここを広げて。わたしはここまでの道を作るね!」
6年生のお姉さんが仕切る。みんなで役割を決め、着々と仕上がる秘密の空間に誰しもが期待していた。
***
雨が降った。
秘密基地づくりを始めて3日目のこと。学校から帰り、5時のチャイムが鳴るまでの間に作っていたため、完成までに時間を要するのである。
ようやく完成が近づいてきた最中に降った雨だった。
作るのは楽しかったが、なんせ重労働。子どもながらに疲れを感じていたせいか、雨で外に出られない日に少しホッとしていた。
翌日、作業は再開。
かろうじて形は保っているが、風があったせいか草木が乱れ濡れていた。
基地を整えていると思わぬ仲間を見つけた。バッタやアリ、名もわからぬ昆虫たちだ。外遊びが好きだった私たちは昆虫に群がる。「わー!」と集まり観察。
虫は虫の世界があるよね
お姉さんは言う。私たちは捕まえることなく、共に過ごすことにした。
***
「きゃー!」
緊急事態が起きた。
蜂だ。
昆虫と共存することに決めた私たちであったが、さすがに蜂は仲間に入れられない。刺されたことがある友達は大きな声で注意を促した。
逃げる。逃げる。逃げる。
ひたすら、ただひたすら草むらを走り家の方へと向かった。
やっと振り返ることができたのは、"いつもの"公園。遊びなれた公園に安心感があったのか、やっと足が止まったのである。
こんなに汗が滴っているお姉さんは初めて見た。冷静さを保つ余裕がなかったことを子どもながらに感じた。
蜂はこわい生き物ーー。
この時に蜂への恐怖が脳に刻まれた。
***
中学生の頃だろうか。
はちみつができるまでの経緯を知った。はちみつは蜂1匹1匹の努力の結晶であることを。しかも1匹の力ではなく、団体戦だとは驚きだった。
抗菌、免疫、腸活、美容。
はちみつは私の生活に欠かせないアイテムだ。
・喉が痛くなったらはちみつ大根
・ヨーグルトにはちみつ
・はちみつ配合のリップクリーム
好きなのだ。
期待できる効果や効能はもちろんだが、体に染み渡る"味"がたまらない。
こわいこわい蜂が作る蜜は、熟した果実よりも甘く、万能。危険な生物から生み出される喉に絡みつく甘さーー。そのギャップによる効果なのかわからないが、クセになる。
逃げ回ったあの日の思い出も、今は甘みを感じるいい思い出。
鮮明に記憶に残るその思い出が私をほっこりさせるのも、蜂のおかげと言えるかもしれない。
(完)
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