はちみつもらい隊 副隊長 ⭐︎BARUKI⭐︎
木々の緑が若草色に色づく、暖かな季節のことだった。僕たちは誰もいないようなボロボロの小屋の前で出会った。
僕は動物や虫と話すことができる特異体質だ。あの日の時のことだ。森での散策中に迷子になってしまった。空も闇に包まれ始め、当時7歳だった僕は不安な思いでいっぱいだった。縦横無尽に森の中を彷徨っているとある一軒のボロボロの小屋がポツンとあった。僕はその日の夜をそこで過ごすことに決めた。古屋の入り口は壊れていたため容易に入ることができた。すると入り口にミツバチが一匹倒れてこちらに助けを求めていた。僕はポケットに入れていた小さなペットボトルに少しだけ残っていた水をあげた。するとそのミツバチは元気になって羽をブンブンと振りながらお礼を伝えてきた。蜂の名前はサユルス本田というらしい。この小屋根付いている蜂の巣の住民で、女王を守るたった一人の臣下らしい。女王はもう寿命で、さらに最近の台風で女王とサユルスの二匹以外は死んでしまったという。ボロボロになり古屋の屋根はその役割をこなさないため、蜂の巣は今にも落ちてしまいそうな状態だった。僕は女王に会い、何か自分にできることがないかと聞いた。 すると、どうやら天敵のスズメバチが襲ってくるというので守って欲しいとのことだった。
その夜僕は、小屋の前で立ってスズメバチが来るのを待っていた。待ち初めて5分ほど経った頃にスズメバチの大群がやってきた。数は見た感じ二百匹はいそうだ。僕はスズメバチのボスと話し合い帰ってもらうように説得したが、なかなか帰ろうとはしなかった。そこで僕はあることを思い出した。ポケットにクッキーが入っていたのだ。そのクッキーを差し出すとスズメバチの大群は去っていき、もう襲わないという約束も取り付けることができた。一悶着あった後、僕は森の外までサユルスに案内してもらった。お腹はペコペコでその時のことはあまり覚えていないが、何も食べていなかったため意識が朦朧としていた。そんな時ペットボトルいっぱいに詰められた蜂蜜がポケットに入っていることに気づいた。これはきっと女王からの感謝の気持ちだろう。そのはちみつはトロトロとした舌触りが口の中まんべんなく広がり、飲み込んだ後の口の中に残る濃密さは、僕を幸せの渦で飲み込んだ。
今となっては嘘みたいな体験だが、今でも蜂蜜を食べるとふと思い出す。これは僕とサユルスの忘れられない一晩の思い出だ。
(完)
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