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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂の巣と香港

柴本淑子

 

 三十年ほど前、夫の転勤に伴い、当時英国領の香港で四年ほど暮らしていた。香港の中心部中環(セントラル)地区は高層ビルが立ち並ぶオフィス街だが、ブランドショップやジュエリー店なども軒を並べ、おしゃれで活気に満ちた場所だった。
 その一角に「オリバーズ」という英国系の高級スーパーマーケットがあった。ワインやチーズなどの品ぞろえがよく、客の大半は香港在住の欧米人。静かで落ち着いた店内には日本では見たこともない美しいパッケージや、珍しい食品にあふれ、私にとってここはまさに心躍る別世界だった。
 店の中央の棚にはジャムやスプレッド類、紅茶などが上から下までびっしり並べられていた。アフタヌーンティーの習慣を持つ英国領ゆえ、アイテムの多さは半端ではない。一つひとつを楽しげに見ていくうち、私は目が釘付けになった。蜂蜜のコーナーである。透明な明るい黄色、美しい琥珀色、濃い褐色など色味の違う蜂蜜が、さまざまなデザインの瓶に入って並んでいる。その中で見つけたのは、蜂蜜の中に、切り取った蜂の巣も入った瓶だった。
 「え、この蜂蜜はこの巣から採りましたという証拠?」
 「巣は食べられる?」
 「そもそもなんで巣が入っている?」
 次々と疑問が浮かぶ。
 今でこそ、日本でも蜂の巣入りの蜂蜜は簡単に手に入るが、当時の私は見たことがなかった。脳裏には、テレビなどで見たことがある養蜂家や巣箱の風景が浮かび、その巣の一片が瓶の中に鎮座している姿は衝撃的だった。
 さっそく一瓶買ってみた。スプーンで引っ張り出して、かじってみる。舌で押すと蜂蜜がとろりとあふれ出す。が、巣のかけらが口に残る。しかし、蜂蜜の甘さと香りはちゃんと楽しめるうえ、物珍しさと話題性がドンと加わるのだ。
 「いいもの見ぃつけた!」
 当時、日本から友人・知人が次々と香港に遊びに来た。彼らに香港のお土産は何にしようと相談されると、私は迷わずこの蜂の巣入りの蜂蜜を推した。「どうだ、香港にはこんなに珍しいものがあるんだ」と胸を張って差し出したら楽しいからだ。何人もが蜂の巣入りに驚き、おもしろがって買っていった。彼らは日本に戻ってどんな自慢をしたのだろうか。
 あれから時代は大きく変わった。日本でも巣入りの蜂蜜どころか、巣をそのまま包装したものまで市販されるようになった。香港は中国に返還されて、街の雰囲気は少しずつ変わってきた。コロナ禍以降、昨年ようやく香港を訪ねると、「オリバーズ」は健在だった。
 蜂の巣と香港。
 全く違うこのニつの言葉は、いくら時が動いても私の中でしっかりと結びつき、いつまでも忘れられないものになっている。

 

(完)

 

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