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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

思い出の蜂

松露

 

 それは私が小学生の頃、遠足をしている中で唐突に起きた出来事であった。
 とある神社仏閣を見学した後、列を作ってバスへと戻る小学生の中に、私はいた。その私は、隣の友人とともに、歩きながら缶入りのオレンジジュースを飲んでいた。友人との話や風景に夢中になりながら、時折ジュースを口にしていた。
 ある瞬間、口の中で、何かがモゾモゾと動いた。
 次に起きたことは、激痛であった。
 あまりの痛みに口を開けたところ、口の中から何かが飛び立っていった。
 虫なのであった。
 それが蜂であることは、すぐに分かった。かつて刺された経験があったからである。
 だからと言って、どうかれば良いのか、分からない。何せ、口の中だ。薬を塗るというわけにもいかない。何よりも、今は遠足中で、みんなと行動している最中である。その場に立ち止まって何とかなるという類のものでもない。結局は我慢するしかなかった。
 その後、痛みが長引いたという記憶はない。自然に引いていったのだろう。
 今となっては、痛みの記憶よりも口中のモゾモゾ感の記憶の方が鮮やかである。あの時、蜂も相当に焦ったことであろう。せっせと蜜集めという仕事の最中に、突如として高湿度の暗闇に覆われてしまったのだから。自分の痛みよりも、蜂に対しての憐憫の方が勝っている今である。
 あの蜂が予想外の難事に屈することなく、蜜を巣に持ち帰り、その蜜が、誰かの食した蜜になっていればなあ…と願いつつ。

 

(完)

 

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