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蜂蜜エッセイ応募作品

美味しい薬

みか

 

 美味しい薬の記憶が、突然蘇った。
 SNSの世界では、流行が目の前をビュンビュン飛び交う。今までに見たことのない、新しい技術を用いたものもあれば、昔から連綿と語り継がれてきた民間伝承的な話題が再流行することもある。
 最新の世相を表すSNSの世界に、この冬ひょっこり登場したのが「はちみつ大根」だ。
 小さなサイコロの形に切った大根をガラスの瓶に入れ、はちみつをたっぷりと注ぎ込む。大根の表面がはちみつで覆われるようになると、鍋や味噌汁に入っている大根とは、ちょっと違う雰囲気を醸し出す。夢の国のお菓子のような。
 その存在を知ったのは、祖父母の家だったように記憶している。両親が共働きで家に居ない時、私と弟は同じ敷地内に建つ祖父母の家で過ごすことになっていた。おじいちゃんは庭の小さな畑で野菜を作り、おばあちゃんはその野菜を美味しく料理してくれる。私と弟は気が向けば手伝い、気が向かなければ畑で虫を捕まえたり、鬼ごっこをしたりした。
 はちみつ大根が登場したのは、寒い日のおやつの時間が多かった。コンコンと咳をする弟の様子をじっと観察していたおばあちゃんが、おやつのふかし芋と一緒にその瓶を抱えて来るのだ。
 「トモくん、咳止めのお薬を飲もう」
 薬と聞いて弟は顔を歪める。
 「くすり、いらない」
 おばあちゃんはつれない返事を聞きつつ、笑いながら瓶の蓋を開けた。ティースプーンは器用に大根を避けてはちみつを掬う。とうてい薬とは思えない美味しそうなものが、目の前に登場した。
 「じゃあお姉ちゃんにあげよう」
 私は相当物欲しげに見ていたらしい。薬と聞いて嫌がる弟ではなく、おばあちゃんは私にティースプーンを手渡した。
 甘いはちみつが、口の中で溶けていく。一度口から出したスプーンを口に戻し、濃厚な味を最後の最後まで楽しむ私の様子を見て、弟が口を開いた。
 「これ、本当にくすり?」
 原材料がわかったことと、隣でティースプーンを離そうとしない私に安心したのか、弟もはちみつ大根を服用することを決めた。
 咳止めの効果があったかどうかはよく覚えていない。けれど、こんなに美味しい薬ならいつでも大歓迎だと思ったことは覚えている。
 インフルエンザやコロナが流行している中で、咳止めとして注目された「はちみつ大根」。SNSの世界で再会できたことに感謝しながら、これから試験期間に突入する息子のために美味しい薬を作ってみようと思った。

 

(完)

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