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蜂蜜エッセイ応募作品

大きな蜂蜜の瓶

きのみん

 

 実家の台所の床下、そこには大きな蜂蜜の瓶が置かれていた。母が瓶を床下から取り出し、これまた大きなスプーンで蜂蜜をひとすくい。トロ~ッとスプーンから流れ落ちる蜂蜜を見るのが幼少期の私の楽しみだった。水のようにサーッと流れ落ちるわけではなく、グミのようにゴロッと転げ落ちることもない。絶妙な速さで重力に身を任せるその姿に、美しささえ感じた。しかし、この蜂蜜は母の大好物であり、私が食べられるのは1年にほんの数回。その少ない機会の中でも、私は特に冬に食べる蜂蜜が大好きだった。冬場の寒さで瓶の底で固まった蜂蜜、これをザクっとスプーンで削ってひと口で食べる。液状の蜂蜜をはるかに上回る濃厚な味わいが舌に広がり、身も心も癒される。味はもちろん、この心身に染みわたる感覚が病みつきになり、何度も母親に食べさせてと懇願した。少しばかり良いお値段のする蜂蜜だったのもあるのだろう、母はなかなか分けてくれなかったが、これがまた私にとってその蜂蜜を特別な存在にした。
 しかし、数年前に実家を出てからばったり蜂蜜を食べなくなった。年末年始には実家に帰るが、たっぷり出てくるおせち料理やお鍋に身も心も心地よいほどに満たされて、蜂蜜を食べ忘れた!と後悔するのはいつも年初めの仕事が始まった頃である。それなら仕方ない買うか、と地元のスーパーに行ってみるが、売られている蜂蜜は冬になっても固まらないものばかり。実家で食べたあの味、あの触感、あの感動が恋しくて、固まらない蜂蜜にはどうにも手が出なかった。
 そんなある日、父と私で父母の実家がある和歌山へドライブをすることにした。和歌山といえばミカン、ということでとある有名な直売所へ行ったのだが、その帰り道に父から思わぬ一言。
 「ここ、お母さんの蜂蜜を買うときによく通ったな。」
 そう、実家の台所の床下にあった大きな蜂蜜の瓶は和歌山でつくられていたのだ。あの美味しい蜂蜜をまた食べられるかもしれない、私はすぐにこの話に食いついた。
 「え、その蜂蜜めっちゃ好きなんやけど。また食べたいなぁ。お店どこなん?」
 「少し遠いけど、この辺りは老舗の養蜂場さんが多いからちょっと寄っていくか。」
 確かに少し遠かったが、しばらく進むと「養蜂」の看板がちらほらと。ドキドキを胸にそのうちの一つに入ると、あの大きな蜂蜜の瓶が棚いっぱいに置かれていた。しかも、瓶の底には蜂蜜の固まりがあった。あぁこれだ、この蜂蜜だ。こんなところにあったんだ。
 気づけばその瓶を購入していた。そして、これを書いている現在、我が家の台所にはもちろん大きな蜂蜜の瓶が置かれている。

 

(完)

 

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