耳の裏
蜂蜜を舐めるのが、好きだ。
舐めるだけじゃない、紅茶、ヨーグルト、ピザなどなど、勧めたい食べ方は幾千通りある。ただ、わたしはスプーン一杯の蜂蜜を舐めるのが、他の食べ方よりも大好きなのだ。
わたしは食べ物の味にうるさい。ものすごくうるさい。つまり、わたしは自称違いのわかる人間ということだ。いい所で獲れた帆立はすぐわかる、舌に感じる滑らかさとまろやかさ。刺身にするのが1番よい。スープカレーの美味しい店もすぐわかる、スープの味が他とは違う。美味なスープカレー屋さんの人気メニューは大体、納豆が入っている。
食べ物にうるさいと言いつつ、蜂蜜には違いなどないと思っていた。この世に生をうけて20年、知らなかった。蜂蜜にも種類があると知ったのは大学生のとき。一人暮らしになっても、スーパーで蜂蜜はよく買っていた。美味しいと思って生きてきた。ある日、母が電話で「蜂蜜って種類によって味、違うらしいよ。だから純粋はちみつっていうの、買ってきたから送るわ。」と言って、蜂蜜が入った小さな瓶を送ってきた。小さな、小さな瓶である。 母に聞いてみた所、結構なお値段だった。百花と書かれていた。薄い黄金色をスプーンにひとすくい、舐めてみた。わたしの中の、小さな世界が広がった。味が、深く、深く、深かった。なんて言えば良いのか、とにかく、雑味が一切なかったのを覚えている。今まで舐めていたのは加工されていたものだと、純粋はちみつが一瞬で脳に分からせた。違うスプーンでもう一度すくう。純粋な感動が湧き起こるとともに、自身の浅はかさに対して羞恥を覚えた。こんなにも自然な甘みの、口に雑味の残らない蜂蜜の存在を知らなかったなんて!小さな歴史が書き換えられた瞬間だった。
毎日、黄金をすくって舐める。喉風邪を自然とひかなくなった。それに、ルーティン化することで生活の一部になり、わたしの身体を内側から作ってくれている感じがする。だから、今日も幸せの黄金をスプーンにひとすくい。
(完)
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