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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

努力の結晶の運び屋

岸 明日翔

 

 長い年月を経て、漸く仲間兼第二の親のような存在の方に会うことができた。

 SNSという広い場所で出会った、同じ趣味を持つ方が東京に住む私に会いにお土産を持って、青森から遥々来てくれた。
 文字だけで相手の感情や人柄を作り上げるのには限界があるから、直接会いたいと思い、親に大説得して、東京駅で会う事を許してもらった。

 その方は私に、蜂蜜と本のプレゼントを持ってきてくれて、風邪引いた時とかに舐めてね、と笑いながら言い、絶対にまた会う事を誓った。

 本は少しずつ読み進めたが、小瓶に入った3つのフレーバーの蜂蜜は、なくなるのが嫌で、どうしても開けられず、暫く台所の片隅に飾っていた。
 だが、食べずに置いておくのも勿体ないので、私は「自分が何かを成功させたら一口、何にも付けず、そのままの蜂蜜を味わう」事を目標、楽しみとし、自分のやるべき事について取り組んでいた。その時に事件は起きた。

 帰宅したら目に付いた、空いていた小瓶。匙についていたツヤ。
 母が勝手に蓋を開け、パンに塗って呑気に食べていた。
 私は大層腹を立て、その事をいただいたご本人に連絡したら、まだまだお子ちゃまね、と、文字から笑顔が溶け出しているのが分かるくらい、甘い文面のメールがきた。
 母は、私のご機嫌取りに、一口スプーンで蜂蜜を掬って、私の口に入れた。

 芳醇な香り、舌に沿うように流れるトロっとした甘い液。
 「蜂蜜はね、皆が大掛かりで作るものなの。この匙一杯の蜂蜜は、蜂が大変な苦労をして運んできた、努力の結晶なんだよ」と母は言った。
 その蜂たちの努力話を聞いたら、ますます母が勝手に小瓶を開けた事に腹を立て、逆効果になってしまったが、もう2個の小瓶は、努力をした後に食べると、今度こそ自分に誓った。

 匙一杯、蜂が一生をかけて集めるたったの5グラムのみつ。花から採取して、皆で形にしていき、暖かい春経て、暑い夏を越え、変化する秋を越え、寒い冬を越える。様々な蜂たちが一匹一匹の汗が流れる蜂蜜を。

 何かを成し遂げた蜜を味わったその時の味は、一段と美味しかった。
 もちろん風邪を引いた時に食べた蜂蜜も、とても美味しく感じたが、努力の味×努力の味は、何にも代えられない味だった。蜂だけでなく、生産者の皆さんの苦労あってこそ、芯から溶けるような美味しくて優しい蜂蜜ができるだろう。

 最後の小瓶を開けて、思った事。大地の恵み、それが齎してくれる自分へのご褒美。どこかでまた蜂蜜の小瓶を見つけたら、誰かにプレゼントしたいと思った。

 「だって、最高の結晶だから!」

 

(完)

 

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