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蜂蜜エッセイ応募作品

はちみつを舐めた女

江戸川みゆう

 

 2024年春頃から、恋人の社宅に半同棲している。2023年のクリスマスに出会って、紆余曲折ありながらも春夏秋冬を越え、喜怒哀楽の感情を分け合いっこしながら過ごしてきた。
 食料もお互いの実家からお裾分けしてもらったものを分け合ったり、お布団も狭いシングルサイズを分け合って眠っている。
 私は持病があって日中家にいて、書きものをしたり家事をしたりして過ごすことが多い。病院や買い物、美容室、たまのご褒美にスタバなどに出かけるが基本は家にいる。
 恋人は会社員で、土日祝日以外は朝から晩まで外で働いている。
 同棲しだした頃からキッチンのシンクの上の棚に瓶が二つ並んでいるのを知ってはいたが、背中に汗が伝うような夏の暑い昼間に、家に食料がなくて瓶のうちの一つに手を伸ばしてしまった。
 恋人が以前誰かに貰ったという、アカシアと栃の花からとれた、透明な美しい黄色をしたはちみつだった。
 ティースプーンをアカシアの方の瓶に突っ込み、はちみつをたっぷりと乗せて口に入れて飲み込んだ。
 飢えた脳と肉体に、はちみつの果糖とブドウ糖が速攻でチャージされる。
 舌に甘みとフローラルな香りが残り、ほんのひと匙なのにすごく満たされたような気分になった。でも、もっともっとと身体が求める。
 本能の誘惑に抗うことが出来ず栃の花の方のはちみつを小さな皿に注ぎ、それを舐めた。こちらも少し風味が違って美味しくて、二度おかわりした。
 恋人にバレないように瓶を元の位置に戻し、パーフェクトクライムが成立したかのように思えた。
 その日の夜も、あくる日の夜もバレることはなかった。
 が、それから一週間ほど経った日のこと。恋人がお皿を洗ってくれている時だった。私はキッチンからほど近いソファでスマホをいじっていた。
 「はちみつ、何かに使った?」
 意表を突かれ、スマホから目を離した。
 「ん?なんで?」
 「いや、別に良いんだけど。瓶の蓋が空いていたからさ」
 「えっ?」
 見ると、確かに蓋が閉まり切っていなかった。全然パーフェクトなんかじゃなかった。
 「ごめん、この間お腹空いて舐めちゃった」
 「あ、そうだったの?可愛い」
 恋人は私が何をしても可愛いと言う。例え怒っていても、ヨダレを垂らしながらまどろんでいても。はちみつみたいに私に甘いのだ。今後もずっと、糖度の高い生活を送っていくのだろう。

 

(完)

 

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