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蜂蜜エッセイ応募作品

カブトムシにごちそう

打越 玲子

 

 カブトムシは甘い樹液が好きだ。小学生の夏休み、カブトムシを飼ってもらった。エサは樹液かハチミツを、ということだったのでハチミツを遣ることにした。母にハチミツのありかを訊くと、母は台所で家事をしながら「戸棚にあるから、あげていいわよ~」と快諾してくれた。私はイスにのぼり、戸棚にあるハチミツを取った。やってみると、ハチミツのスプーンが水槽に敷いてあるおが屑に触れて、それをまたハチミツの瓶に突っ込むので、瓶におが屑が入ってしまった。今思えば不器用な事この上ないが、子供というのはそういうものだ。少し心が痛んだが見ないことにして、戸棚にハチミツを戻した。
 それから毎朝、ハチミツを遣る度におが屑が入っていった。うちは共働きであまり構われなかったので、誰もそれを見とがめることはなかった。弟がいたがまだ幼児で論外だった。毎朝、瓶を見る度に気が重くなりながらも、私は何も改善することなくその日課を続けた。ハチミツは虫臭い臭いがし始め、気の重さは増していった。母は気前よく「いいわよ~」などと言ったが、父が怒ると掌を返したように怒る人だ。そもそも自分が快諾したことを覚えていないに違いない。きっと二人で責めまくるだろう。見つかった時のことを思う度、気の重さは増した。
 そしてとうとうその日が来た。朝、パンにハチミツを塗ろうとした母が悲鳴を上げたのだ。
 「レイコ!もう、ハチミツをこんなにして」
 「あかんやないか!」父も怒った。私はどうしていいか分からず、パンを食べ続けた。朝の忙しい時間であったため、それ以上怒られることはなかった。そうして悩みはあっけなく幕を下ろしたのだった。
 その後、ハチミツはカブトムシ用に下ろされた。少しもったいなかったと思う。

 

(完)

 

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