墨山 琴太
メキシコからの一時帰国時の、家族・友人・知人への土産には毎年頭を悩ませていた。
駐在開始当初はメキシコの象徴とも言えるテキーラを重い思いをして配っていたが、必ずしも好評ではなかった。もらった側からは「飲み方が分からない」という声が多かった(美味いのに……)。何を持って帰れば受けが良いだろうと、いろいろ試行錯誤した。しかし〝コレ!〟と言える土産物がなかなか見つからない。
メキシコには、広く自生し神の木とも呼ばれるメスキーテがある。苛烈な太陽光と乾燥した大地のもとで力強く育つ、トゲの多い樹木だ。水分の少ない荒地であっても、深く根を張って生き延びる。小さな花が控えめに咲き、砂漠の景色を彩る。山中を散歩中に運悪く地面に落ちた枝を踏むと、その太いトゲがトレッキングシューズの厚い靴底を貫通して足裏に到達することすらある。メキシコ政府により保護されたメスキーテは、伐採が禁止されている。そのおかげで工場建設時に対処に苦慮したという話を耳にする。
広く知られるように、マヌカハニーには喉の炎症などに効能がある。家族が喉を傷めた時には日本からマヌカハニーを持参した。メキシコでも入手は可能だが、信じられないくらいに高価だ。継続購入はしたくはない。
何が出来るか対策を練る。そう言えばメキシコでは多種の蜂蜜が売られている。何か代替できるものはないかと探して見つかったのが「メキシコのマヌカハニー」と呼びなわされることもある、メスキーテ蜂蜜だった。過酷な気候でたくましく生育するメスキーテから出来た蜂蜜からは、強靭な生命力が分け与えられそうな気がする。白っぽく輝く色も、すっきりとした味も良い。その後、すっかり我が家の定番蜂蜜となった。
このメスキーテ蜂蜜を土産にしたところ評判が良い。もらったテキーラへのおざなりな礼を言うだけだった友人たちから「家族から来年は十倍欲しいと言われた」という増量要請があったり、一時帰国飲み会の打診時に「出来れば今年もあの蜂蜜を……」と遠慮気味に依頼されたりもする。
メキシコ駐在が十年を越えると、もう奇をてらった土産を探す気は失せた。メキシコと言えばと受け狙いの激辛品を探すことは、もうしない。誰もが好印象を持ってくれるメスキーテ蜂蜜を、一時帰国土産の中心に据えて数年が経つ。
これから何年メキシコ生活が続くのかは分からない。だが、私の土産が引き続きメスキーテ蜂蜜になることは確実だ。
(完)
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