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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

はちみつミルク

佐藤美恵

 

 思春期にはよくあることかもしれないけれど、容姿がコンプレックスだった。当時の将来の夢ランキング上位の「お嫁さん」を今の若い人は笑うかもしれないけど、私はむしろ書けなかった。でも、勉強も運動もそれなりにできるし友達もいる。だからひとりでも生きていけるはず。世間では男女雇用機会均等法が施行され、キャリアウーマンという生き方も選べることを私はきちんと知っていた。私は大丈夫。
 なのに、恋とは理屈に関係なく落ちるものだから恐ろしい。なぜか私が好きになるのは華やかで享楽的な人ばかりで、知識やキャリアなんて何の役にも立たなかった。さらに悪いことに、私は恋をすると狂うタイプだったらしい。あっさりと宗旨を替えて、難しい本を片付けて美容やファッションの雑誌を並べた。私も華やかで綺麗になれば好きでいてくれると思ったから。
 蜂蜜は美容にいい?試してみよう。髪と地肌に塗り込んでシャワーキャップを着用。顔全体にも薄くなじませて、唇にはたっぷり。よし、準備完了!いざ半身浴!
 思春期を抜けてもコンプレックスがなくなったわけではない。自分の容姿には相変わらず全く自信がない。だからこれは戦闘準備。雑誌に書いてあったような「リラックス」なんて到底できないと思っていたけど、ふんわりと広がる蜂蜜の甘い香りに思わず心が緩んだ。
 子どものころから、私にとって蜂蜜入りのホットミルクは万能薬だったから。軽い風邪や腹痛や頭痛なら、寝る前に飲めば朝には治っていたから。
 結局、何も報われないのに本棚に難しい本を戻したり隠したりを繰り返してしまった。20代にはよくあることかもしれないけれど、恋だけじゃなくて、思うようにいかないことばかりだった。一歩も進みたくなんかないのに、人ごみに押されて無理やり足を動かすくたくたの帰り道。誰もいない暗い部屋にようやくたどりついて、靴も脱がずに座り込んで泣く。そんな夜でも、はちみつミルクを飲めば何とかなるような気がした。風邪や腹痛や頭痛も治ったんだから、きっと明日の朝には大丈夫になってるはず。眠ってしまおう。大丈夫、私はまだ大丈夫。
 あれからずいぶん歳を重ねた。もう容姿で悩んだり恋をすることはないけれど、どうしようもなくつらい夜は時々やってくる。これからもそうなのだろう。最近、はちみつミルクに生姜を入れることを覚えた。残りの人生はそうやって生きていこうと思う。私は、大丈夫。

 

(完)

 

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