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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

おじいさんとミツバチ

千島 宏明

 

 私がまだ、少年で、すごい山村に住んでた頃のことです。その村は里山に囲まれた辺鄙なところでした。村はずれの雑木林の中の番小屋に一風変わったおじいさんがたった一人で住んでいました。身寄りはなくて私がもの心ついたころにはもう一人でしたね、そのおじいさんの仕事は木こりで、薪や杉皮を売ってなりわいにしていたのですが、村では変わり者で通っていました。村人との付き合いもなく、まるで仙人か隠者のようでした。でも、私はなぜかそのおじいさんが好きで、おじいさんもなぜか私のことは受け入れてくれて、よく通っては山のことなどを教えてもらっていたのですが、そのおじいさんは木の樽でミツバチを飼っていました。
 小さな穴を一か所だけ開けた杉樽を森の中に置いとくとミツバチがそれを巣にするんですね。
 樽の蓋を頃合いを見はからって開けると、中にたくさんのミツバチがいて、自然に巣を作り蜂蜜がいっぱいため込まれていたのを昨日のことのように思い出します。おじいさんは巣を山刀で切り取って私にも一口食べさせてくれました。ほのかな杉のような香りのする、懐かしいような味でした。
 あれから五〇年。月日はあっという間に流れすぎました。私は中学で村を離れて、それ以来、村には帰っていません。
 おじいさんがその後どうなったのか、私にはわからないのです。
 風の便りに聞いたところによると、その雑木林はその後切り開かれて今はゴルフ場になってしまっているそうです。
 そうして、今では私もすっかりおじいさんになりました。年のせいか、昔のことが無性に懐かしくなることがあります。
 そんな時、五〇年以上昔の遠い思い出がふっと脳裏をかすめることがあるのです。今はもう存在しない過去の、遠い日の消え去りそうな思い出の数々、それでも、あの蜂蜜のほのかな杉の香りのような味だけは今でもくっきりと舌の記憶に残っているのは不思議なのです。

 

(完)

 

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