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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

白湯のち蜂蜜ときどき檸檬

 

 耳に滑り込んできたのは、電車の音ではなく子どもの声だった。学校の帰りみち、遮断機の前であずきいろの電車が通り過ぎるのを待っていたとき、後ろを振り向くと、空に向かってぽろぽろぽろぽろ涙をこぼしている子がいた。「いまね かなしいきもち」と何度も言い「あのね おなかもしもしはいいけど おくちあ~んして のどくちゅくちゅはいや~」と、ひっくひっくと肩を震わせ泣いていた。横にいるお母さんと今からきっと病院へ行くのだろう。お腹にあてる聴診器は大丈夫だけど、口を開ける検査か処置は、天地がひっくり返っても絶対に嫌みたいだ。遮断機カ~ンカ~ンの音をかき消してしまいそうなほど絶望的な泣き声がさらに大きくなっていく。しかし、飲みものを口にした途端、ぴたりと泣き止んだ。なにを飲んだのだろうか。どんな味のものを飲んだら、一瞬で涙が止まるのだろうか・・そのうち、目の前をゆっくり電車が通り過ぎ、遮断機が上がった。線路を渡り終えるころには、ちいさな笑い声が聞こえていた。

 青空の下、学校の芝生で子ども支援の一日子どもカフェを開店させたことがあった。みつばちの好みそうな向日葵いろのクラスTシャツをみんなで着て、あたたかい飲みものを準備した。蜂の手も借りたいほどの忙しさで、ぶんぶん働き飛び回った日のあたたかい飲みものをふと思い出した。

 ところで、朝は鉄瓶で湯を沸かす。それを小さな魔法瓶に注ぐ。スプーンひとさじの太陽のしずくを加えて、はいおしまい。白湯のち蜂蜜。寒い日は、白湯に蜂蜜を垂らして学校へ持っていくことがある。テストや気分で、レモンのきゅっと一絞りが加わる「白湯のち蜂蜜ときどき檸檬」という日もある。英語の小テストが終わって、それを口にしホッと一息ついていると「なに飲んでんの」と聞かれた。「ハニレモホッウォーラー」と言ってみた。案の定、honey lemon hot water と聞き取ってもらえなかったが、次の日、私たちは互いの魔法瓶でちいさく乾杯した。小テストがはなまるだったわけではない。友達が「白湯のち蜂蜜ときどき檸檬」なかまに加わったからだ。私たちはころころ笑いあった。

 あの日、ぽろぽろぽろぽろこぼれる涙をとめた飲みものは、

 「さゆのちはちみつときどきれもん」だったのかも・・と思った。

 

(完)

 

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