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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜色のひと時

美夜子

 

 突然だが、私は蜂蜜が嫌いだった。「だった」ということは、それは過去のものという訳で、「今は好き」ということでもあるのだ。私が蜂蜜を好きになった瞬間。それはひどく唐突で、そして素敵な瞬間だった。今日は皆さんにご紹介したい。
 私は音楽大学で声楽を専攻していたが、当然声楽科にも世間一般の大学と同じ様に定期試験が存在し、その内容は「歌うこと」である。試験官役の先生たち数人の目の前で、自分を担当してくれる先生と話し合って決めた曲を歌うのだ。伴奏のピアニストは学校側が用意してくれるわけではなく、生徒側が自分で探さねばならない。皆、必死になって学内のピアノ科の子に頼み込んでいた。
 私は当時、運良く一人のピアノ科の生徒を確保していた。同じドイツ語の授業を受けていた縁で仲良くなった子で、気安く色々と相談できる点が良かったのである。試験曲について結構突っ込んで離さねばならぬことも多いので、お互いの信頼関係が重要なのだ。時を同じくして、私は試験以外にも悩みがあった。何を隠そう、それはのど飴についてのことである。私はミント系の刺激があまり得意ではなく、そうするとのど飴の選択肢が劇的に消えていってしまうのが、この国の一つの特徴なのだ。私は、殆んど路頭に迷った。それまで愛用していた焦げた砂糖の味のみの飴に、飽いてきてしまっていた。舌の上で段々つまらなくなっていく味と、相変わらず開かれぬ選択肢の扉。
 「じゃあ、この飴はどう?」
 その時、伴奏者が差し出してくれたのが、今では結構有名になっている某蜂蜜百パーセントの飴である。私は、何とわがままなことに、ミント系の刺激に加えて、黒糖や蜂蜜等のいわゆる「エグみを持った甘さ」も苦手だったので、正直、この申し出は有難迷惑であった。やんわりと断る私、それでもと薦めてくる伴奏者。やわらかな押し問答の末に、結局私はこの飴を受け取ることにした。えい!と破かれる包装紙と、半ばやけくそに口内に放り込まれた一粒。
 瞬間、何が起こったのか、正直に話すと今でも私にはよくわからないのだ。ただ、「美味しかった」。この日、この時をもって私は蜂蜜のことが大好きになってしまったのだ。以来、私は喉のケアと、完全な趣味嗜好の為に、蜂蜜を愛用し続けている。残念ながら伴奏者の子との付き合いは大学限りになってしまったけれど、彼女がプレゼントしてくれた飴とあのひと時は、今でも私の不思議な宝物である。

 

(完)

 

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