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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

家族の宝物

ほろろ

 

 あれは私が覚えている限り一番古い風邪の記憶だ。
 私は双子で、さらに4つ上の兄がいる。両親にとって兄は初めての子どもということもあり、時代なのかとても大切に育てられた。
 それが、私たち双子の出現によって大打撃を受けた。にも拘わらず、兄は両親同様、私たちをまるで宝物のように可愛がってくれた。子育てもよく手伝ってくれたと、成長してから母が教えてくれた。
 ある秋の日。社員旅行から帰った父が、お土産に蜂蜜を買ってきてくれたことがあった。何でも、観光コースに植物園があったらしい。
 これが、私の蜂蜜との出会いだった。まさに未知との遭遇。琥珀色のそれは、まるで生きている宝石のように太い瓶の中でとろりと動き、ひとたび蓋を開ければ、たちまち甘い香りが部屋中に広がった。閉めたあとも、ふんわりといつまでも漂い続けた。
 「綺麗だねえ」見とれていた父が言った。
 「本当ね。食べるのがもったいないわ」母もうっとりしながらため息をついた。
 兄は「食べるなら、妹たちに先にあげて。僕はちょっとでいいから」と意外な言葉。当時兄は、何らかの高級食材と勘違いしていたらしい。
 私たちはと言えば、仲良く並んで口からよだれを垂らしていた。それでも結局、蜂蜜は家族の大切な宝物として戸棚の高い所に堂々と飾られ、しばしの間、深い眠りについた。
 そして、その日はやって来た。私が大風邪をひいたのだ。熱にうなされ何も食べない私に、母はためらいもせず、すかさず蜂蜜の瓶に手をかけた。シュシュッと軽快に開く宝物の蓋。たちまちあの、甘い何とも言えない至福の香りが子ども部屋に広がった。
 「おいしい?」やさしい母から運ばれた蜂蜜は、小さなスプーンから、ゆっくりと私の口へと流れ込んできた。
 「おいしい・・・」覚えていないが、このとき私は大泣きしたらしい。その美味しさと、家族の宝物を食べてしまった罪悪感で、耐えられなかったのだろう。
 今では風邪をひくことも滅多にないが、あの時の宝物の、甘くも苦い思い出はずっと忘れないだろう。

 

(完)

 

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