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蜂蜜エッセイ応募作品

あの日の蜂蜜

岸 秀憲

 

 子供の頃、ある日洗面所の窓の外に、ハチの巣が作られているのを見つけた。一匹の蜂(多分女王蜂)と部屋(正確にはなんていうのだろう)がまだ3つほどの出来立てのホヤホヤの巣だった。
 私は、早速専用ノートを作って、その観察を始めた。巣の大きさと状態、すなわち部屋の数とその中の幼虫の状態や、成長して飛び始めた蜂の数。休みの日などは、天気や時間帯別の蜂たちの行動まで熱心にノートに記録した。
 今考えれば、理にかなった観察だったと思う。私は、まだ夏休み前だったが、そのまま夏一杯、そのテーマで自由研究するつもりでいたのだった。
 かくして、親はたまったものではない。ハチの巣はどんどん大きくなってくる。だが、無趣味で何事にも無関心だったこの私が、いつになく熱中することを見出している。
 幾日か葛藤の日 々があったに違いない。否、夫婦喧嘩にまで発展していたかもしれない。
 ご想像通り、ある程度大きくなり、十匹以上の蜂がブンブンと飛び交うようになった頃、巣は無残に撤去され、外には吸い口を厳重に紙で塞いだ掃除機と、殺虫剤の臭いが残されていた。
 「ごめんなさい、掃除中うっかり吸っちゃったの」
 母親の苦しい言い訳は、小学校高学年の私には、それこそ子供騙しにしか聞こえなかった。
 だが、やはり蜂はまずかったか。私も、それがいかに危険な生物であるかくらいは理解していたから、何一つ異議申し立てすることも無かった。
 翌朝、食卓に珍しい物が乗っているのを見つけた。なんと、蜂蜜である。
 そもそもあまり親父が好きでなかったから、滅多に買うことはなかったのだが、私に気を遣ったのだろうか。
 無骨さの中にも、粋な計らいを親に感じた初めての経験だった。
 それは、給食でたまに出て来る蜜なんか比べ物にならないくらい美味かったことを、今も覚えている。
 ちなみに、観察していた蜂は、あしなが蜂だったと思う。秋には、もぬけの殻になる習性を知ったのは、最近になってからだ。

 

(完)

 

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