二宗 洋輔
マヌカハニーというハチミツが有名だということも、ジョイスから聞いた。彼女とは、同い年ということもあり、ニュージーランド行の飛行機で親しくなった。彼女はニュージーランド人で、現地では僕にとてもよくしてくれた。
例えば、オークランド市内の信号機にはカメラがあり、信号無視すると罰金が科されるとか、国民の10%はマオリ族が占めており、至る所に書かれている謎の言葉はマオリ語であるとか、僕の旅がこれほど充実したのは彼女のお陰である。
そして、彼女は色んな所へ案内してくれた。地元でも有名なチーズケーキのおいしいカフェや映画のロケ地になったワンツリーヒル、建築物としても美しいブリトマート駅、出発前に抱いていた不安は全くなくなっていた。
とにかく彼女は僕を手厚くもてなしてくれた。僕がどんなに頭をひねっても出てこないようなもてなしを自然にしてくれた。彼女は僕より何枚も上手で、彼女の振舞いから、人生に活かせる知恵を学ぶことも多かった。
そして、明日、朝九時成田行きの飛行機で帰ると伝えると、彼女は「兄が車を出すから、空港まで送るよ。」と言ってくれた。こんなに世話になっていいのかと思ったが、そこでも甘えることにした。
その日はとても寒かった。朝五時にホテルに迎えに来てもらい、彼女は、僕が車に乗り込むや否や、水筒とランチボックスを手渡した。水筒にはもくもくと湯気をたてるホットココア、ランチボックスにはサンドイッチが入っていた。彼女のお兄さんによると、ジョイスが朝早く起きて準備してくれたらしい。
僕がそれを食べ始めたところで、彼女は「ココアとサンドイッチに共通して入っている食材は何かわかる?」と尋ねた。答えられないでいると「マヌカハニーよ」と告げた。僕は、その水筒を空港にまで持ち込み、彼女と離れるギリギリまで大切に、大切に飲んだ。
今までいろんなところに行ったが、こんなにも旅先を恋しく思ったことは初めてだった。ジョイスは僕の気持ちがこうなることも想定済みだったのだろうか、マヌカハニーは僕の旅を締めくくると同時に、寂しさでいっぱいの僕の心に温かさをいっぱい注いでくれた。
(完)
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