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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜発の日韓夫婦

北原岳

 

 大学生になり、バイトした金で旅行をする楽しみを知った。教科書で知った土地を実際に旅して、観て学んで食べる。最高だった。次第に関心は海外へと向いて行った。ちょっと気取って欧州へ、文化を知りたくて東南アジアへ、それから近場の韓国へとバイト代はすべて旅に消えて行った。韓国の料理は美味しかった。辛さの向こうに温かさがあった。真冬の旅がそう思わせたのか、スンドゥブチゲもカムジャタンもたまらなかった。
 日本に帰り、韓国からの留学生と仲良くなった。ときどき仲間と集まり、彼女の自宅で韓国/日本料理パーティーをした。といっても、貧乏学生の持ち寄る食材を、チャンジャ/醤油で味付けするだけの質素なモノ。だが、彼女はトッポギにはこだわった。韓国の屋台で食べたあの味を、みごとに再現してくれたけれど、せっかくの日本滞在、いろいろな味付けを皆で試したが、結局、韓国のあの味に戻っていった。だが、ふと気づいた。あれ、これ、辛いけど辛くない! 彼女は、留学中に出会った日本の顆粒だしを混ぜていた。風味が少し和風になるよ、と言われて、確かにそうだ! と、辛さにしびれた舌がうなずいた。だが、それだけではない、味の深みを感じた。しつこく聞くうちに彼女は深みの正体を教えてくれた。蜂蜜。そう、蜂蜜の甘さが、辛さの中にふわりとした柔らかさを作り出していたのだ。美味しいね、マシッソヨ。それからしばらく、自宅宴会ではトッポギが主食になった。楽しい時間が流れて行った。
 だが、ここで思わぬ事態が起きた。辛さ追求派と甘さ追求派が衝突したのだ! 私は中堅派だったが、曖昧な立場を叱責され、どちらかを選ばねばならなくなった。辛さも、蜂蜜の甘さもたまらなく好き。選べない。しかし、解決も唐突に訪れた。二種類作ればいい。彼女は、喜んで日韓友好のため、味付けを工夫しながら美味しいトッポギを作ってくれた。私は蜂蜜を楽しそうに混ぜる彼女と不意に目があった。ほんの1秒が数時間にも感じる、例のあれである。あれ? 蜂蜜がとまらない。大量の蜂蜜が注がれたトッポギがテーブルに運ばれると、さすがの甘さ追求派も、甘すぎる! と不平を述べた。が、それを聞いて彼女は笑っていた。私もつられて笑っている。蜂蜜のこの甘さは、私たち2人だけのものなのだから、皆には分からないさ、というわけだ。
 あれから20年、いまでも、辛さの奥に蜂蜜の甘さが際立つトッポギが食卓に並ぶ。そうか、蜂蜜はこの味を支えるだけではなく、私たち夫婦を、家族をいつまでも甘く、いやときには辛くも、やっぱり甘く優しく支えているのだ、と思いつつ、休日の今日は紅茶に蜂蜜をたっぷり混ぜて優雅に飲んだ。

 

(完)

 

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