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蜂蜜エッセイ応募作品

天国の蜂蜜

ふっきー

 

 幼稚園の頃、母屋に行くと、台所の椅子にちょこんと座った祖母が、決まって手招きしました。
 「よう来た、よう来た。こっちおいで。ええもんあげよ」
 喜んで近寄っていくと、「ハイ、あ~んして」と小さなスプーンを私の口元に近づけてくれます。スプーンには琥珀に光る魅惑の甘い物体が載っていました。
 それは蜂蜜。
 あむ、と口に含んだ瞬間、私はいつも「美味しい!」と甲高い声を上げました。
 祖母はそんな私を嬉しそうに目を細めて見つめていました。
 蜂蜜は祖母の近くにいつもありました。
 祖母は健康のことを考えて毎日摂取していたのでしょうが、実のところ、祖母も私も単純に蜂蜜のコクのある甘い味わいが大好きでした。
 そんな祖母が、眠るように逝ってしまったのは、それから数年後のことでした。
 お墓参りに行ったとき、墓石に蜂蜜の小瓶を供えようとしたら、母に叱られました。
 「そんなものをお供えしたら、虫がいっぱい寄ってくるからやめて」
 「でも、おばあちゃん、蜂蜜が大好きだったよ」
 「大丈夫。天国には、綺麗なお花がいっぱいいっぱい咲いてるでしょ。だからとっても美味しい蜂蜜がいっぱい採れるの。おばあちゃんもきっと、とっても美味しい天国の蜂蜜をいっぱいいっぱい食べてるよ」
 天国の蜂蜜?
 一瞬、ぽかんとした私でしたが、そのときは母の説明に妙に納得してしまい、結局、蜂蜜の瓶は持って帰りました。
 あれから四十有余年、私は毎朝、バターを塗ったトーストに蜂蜜を垂らして食べています。レモネードに入れるのも当たり前、無糖のヨーグルトにもかけて頂いています。
 私に蜂蜜の美味しさを教えてくれたのは祖母でした。五十歳を過ぎた今、天国には本当にとっても美味しい蜂蜜があるのではと思えてきたから不思議です。
 おばあちゃん、そっちに行ったら、一緒に食べようね。天国の蜂蜜…。でも地上の蜂蜜もなかなか美味しいよ。
 私は蜂蜜を垂らしたトーストを齧りながら、そんなことを思ったのでした。

 

(完)

 

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