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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂の子と父の思い出

白築シノ

 

 3年前に亡くなった父は街道歩きが趣味で、定年後は中山道の踏破を目指していた。京都三条を皮切りに、3~4日と期間を区切って毎回決めた宿場間を歩き、次回にその続きを、という形で何年もかけて進めていた。
 9年前、仕事の休暇の都合がついた私は、初めて父の中山道歩きに同行した。この時は4日間で長野県の下諏訪、長和両町の街道沿いを歩いた。旧街道の風情ある建物や松並木、かけ流しの温泉などの楽しい思い出が多い中、印象に残るのが居酒屋で食べた「蜂の子」だ。
 スズメバチの巣を飾りに吊るしていた小さなお店で、長野の名物だと勧められた。父はイナゴの佃煮を食べたことがあると言い、抵抗もなくいそいそと注文した。私は蜂を食べるという発想に驚いた。店主が小皿に盛り付けて出した蜂の子の佃煮をまじまじ眺める。スズメバチの成虫の大きさを連想していたが、思ったより小粒だった。飴色のサナギと幼虫の形がはっきり見て取れる。おお、虫だ……とおっかなびっくりした。
 店主は酒のアテにもご飯にも合うと笑う。父は乗せられてさっそくそれを口にした。一言、「めっちゃうまいなあ」。父の箸はどんどん進み、地酒を呷って「うまいうまい」と繰り返す。「食べてみぃ」と促され、まだ躊躇はあったが、父と店主の手前、恐る恐る口に入れた。
 「うまっ」
 お世辞ではない。本当にうまかった。そこからは父と同じく酒が進み、蜂の子をもう一皿おかわりした。白ご飯も頼んで、かけて食べてみた。実によく合う。パリッとした食感とプチッとした歯ごたえに、独特のエビのような甘み。まさにおつまみにもご飯のお供にもピッタリな「掘り出し物」だった。長い歩きの旅の疲れも吹っ飛ぶような、美味しい体験だった。
 先日長野に出張した同僚から蜂の子の話を聞いて、当時のことを懐かしく思い出した。父と一緒に中山道歩きをしたのは、あの一度きり。父は残念ながら全行程を終えられずに亡くなってしまった。私は父の遺志を継ぐつもりで、いつか中山道を踏破しようと思っている。父が歩けなかった道だけでなく、父が歩いた道も含めてだ。長野の街道をゆくときは、ぜひまたあの蜂の子を食べて、思い出をかみしめたい。

 

(完)

 

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