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蜂蜜エッセイ応募作品

あんめぇ珈琲

れんげ

 

 茶色い大きな茶箪笥の中には扉を開くといつも足に落としたら骨折するだろうな。位大きな瓶の蜂蜜が入っていた。
 父は、珈琲に蜂蜜を入れて飲むのが仕事前の日課だったからだ。
 いつものように茶、と書かれた湯呑みにインスタント珈琲を入れ、お湯をジャゴジャゴ、蜂蜜をティースプーン山盛り3杯を入れ、カチャカチャ。父曰く、本物の蜂蜜を使うと、珈琲の味や香りが違うらしい。私は心の中で珈琲はインスタントでもいいんかぁい。と突っ込みを入れながら、
 「一口味見させでくれっ」とお願いする。
 父は渋々とした顔を作りながら「うめくてびっくりすっぞ」と私の方へ湯呑みを差し出した。
 どれどれ、と一口ゆっくりと啜る。瞬間目を見開いた。
 「なにこれっ。あんめぇ珈琲、あんめぇあんめぇ。」
 甘いとは想像していたが私の想像をはるかに超えてきた。不味いわけではない、とにかく甘いのだ。
 「なに。あんめぇじゃなくて、うんめぇだろが」私のあんめぃと、苦虫を噛み潰したような顔は、自称、味覚と嗅覚が誰よりも鋭い男、父の気分を大いに損ねたらしい。父は湯呑みを少し乱暴に私の前から取り上げた。
 そして私の顔を横目でちらりと見やり、美味しそうに珈琲を啜り、「ああ、うんめぇ」とわざと大きな声で言った。
 月日は流れ、私も大人になり、インスタントコーヒーにティースプーン一杯の蜂蜜で珈琲を嗜むようになった。
 そして今日も笑顔の父の遺影に話しかける。
 「父ちゃん、蜂蜜のエッセイ募集してるんだって。最優秀には蜂蜜2・4キロだってさ、あんめぇ珈琲何杯つぐれるがな。」
 笑いながら父の好きだった作り方そのままに月命日に珈琲を入れる。お気に入りの茶と書かれた湯呑みを父の前に置き、私も一口啜る。
 「父ちゃん、やっぱり、あんめぇ。でもうんめぇ」
 遺影の父と目を見合わせてまた笑った。

 

(完)

 

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