やすたにありさ
ちらちらと粉雪舞う一月。
小学生の姪の手を繋ぎ、叔母の営むハウス栽培の苺農園へと遊びに行ったときのお話。
「寒い中よく来てくれたねえ。さあ入って入って。」
叔母がハウスのドアを開けると中から苺の甘い香りがふんわりと漂ってきた。
まるで南国のような暖かさが私たちを包みこむ。入り口にコートや手袋を置くと足早にハウスの中へと踏み出した。
ぷちりぷちりと夢中になって苺をもぎ、甘酸っぱい味覚を楽しんでいると、何かが視界を横切った。
優雅にふうわりふうわり舞っているのは小さな蜜蜂。
彼らの飛行をじっと目で追う私に気づいた叔母は口を開く。
「植物は受粉して実をつけるでしょう? さすがに受粉作業を全部手作業というわけにはいかないから、蜂さんに助けてもらってるってわけ。可愛いもんでしょ?」
愛おしそうに蜜蜂を目で追う叔母。
「蜂さん、刺したりしない?」
苺を取る手を止めた姪が上目遣いで訊ねるとすぐに叔母はにっこり笑って「大丈夫、悪さしなければ蜂さんは刺さないよ」と彼女を安心させるように言った。
叔母からもらった苺を箱を抱えて家路につき、小腹が減ったのでホットケーキでも作ろうと材料を用意していたら、蜜蜂に興味を持った姪っ子がタブレットをすいすい指で動かしながら彼らのことを調べ、読み上げてくれた。
日本に住む蜜蜂はセイヨウミツバチとニホンミツバチの2種類だけということ。
ミツバチがお尻の毒針で刺すことができるのは一生に一度で、刺したら死んでしまうこと。
強い農薬の使用や森林伐採などで日本の蜜蜂の数が減少していること。
蜜蜂が一生で集められる蜜の量はティースプーン一杯にも満たないこと。
苺と併せてお土産にもらったアカシアのハチミツをティースプーン一杯分に乗せた姪が、「これが蜂さんの一生分」とまじまじと見てから「がんばった。とってもがんばりました」と言って蜂蜜を味わっていた。
そういえばハウスで飛び交っていた外来種のセイヨウミツバチは、レンタルしているのだと聞いた。
「オー、ココガ日本カー。チャントヤッテイケルカナー」
「ドンナ土地デモ、僕等ハ与エラレタ仕事ヲ賢明ニヤルダケサー」
もしかしたら異国を離れ、新たな国に解放された彼らは、人知れずそんな会話をしていたかもしれない。
出来立てのホットケーキに叔母の苺と大切な蜂蜜を沢山かけて頬張ったらなら、働き者の蜂パワーで明日からまた元気に働けそうな気がしてきた。
蜂さんたちに敬意を込めて大きな一口、頂きます。
(完)
蜂蜜エッセイ一覧 =>
蜂蜜エッセイ
応募要項 =>
Copyright (C) 2011-2025 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.