ホシテントウ
忘れられない蜂蜜、それは親友とこっそり食べた秘密の蜂蜜である。
小学生の時、親友と「給食で出される小袋に入った蜂蜜を拝借し、帰り道に2人で食べる」という極秘計画を立てた。
無論、なんの意味もない。その蜂蜜も自分の分だから悪行という訳でもない。
ただ大好きな親友と楽しい事がやりたい、という純粋無垢な計画だった。
給食の時間、味気ない食パンはスープにディップしてみたり、耳と分けて食べてみたり、怪しまれないように食パンを完食した後、残った蜂蜜をこっそりポケットに入れた。友人も同じ様にして蜂蜜をゲットした。騒がしいいつも通りの日常の中で、私と親友だけの秘密裏の計画が着実に進んでいく。気分はまるでスパイ映画のやり手エージェントだ。楽しくて仕方なかった。
そして遂にやってきた。決行の時。
学校から離れ、他の生徒がいなくなった時を見計らって私と親友はお互い様の顔を見てニヤリ…と笑ったあと、ポケットから蜂蜜を出し、そして、食べた。
私の学校は、買食いは当然の事として、持参可だった水筒でさえ登下校時は飲むなという厳しいルールがあった。それが給食の蜂蜜だ。
これだけはしっかりと悪行である。誰か大人に見られて学校に電話でもされたら大変だ。お互い学校では真面目で通ってたから先生も驚くだろう。でも関係ない。大好きな親友と交わす蜂蜜の盃。この固く結ばれた絆は誰にも邪魔できないぞという気持ちだった。
バレないようもっとこっそりすべきだったが、もう楽しくて楽しくてウヒヒヒ…!ウヒヒヒ…!と顔を見合わせ笑いながら、肩をぶつけながら食べたあの蜂蜜の味。正直、味についてはビックリするほど何も覚えていない。同じ蜂蜜をいま食べたとしてもあっ!あの時の!と気付ける自信はない。
でも、蜂蜜が生み出したあの友人の笑顔、笑い声、気持ちの興奮は今でも触れられそうな距離で覚えている。
本当にただ、ただ蜂蜜を食べただけなのに。
思い出しながら、大人になった私もニヤニヤとしてしまった。この事は誰にも秘密である。
(完)
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