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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ばあちゃんの蜂蜜

ちはやふみ

 

 「蜂蜜」と聞いて幼い頃の記憶を思い出した。何十年も前の幼い頃の話だ。すでに記憶は曖昧になってしまっているが、少し頑張って記憶を辿ってみよう。
 台所のシンクの下、鍋やらフライパンやらが仕舞われている場所。そこに、祖母の家で漬けた梅干しの瓶と共に、ひっそりと佇んでいたものがある。蜂蜜の瓶だった。
 透明の瓶にはぎっしりと蜂蜜が入っていた。瓶の蓋は金属で、緑とオレンジの装飾がされていたような気がする。その蜂蜜の瓶には、ラベルは貼られていなかった。メーカー名もなかった。誰が作ったのか、どこからやってきたのか、はっきりとはわからないが、似たような瓶を祖母の家で見かけたような記憶がある。だから多分、あの蜂蜜はきっと、祖母の家から持ってきたものなのだろう。祖母の家に行くと、いつも帰りには車のトランクがはち切れそうになるくらい、たくさんのお土産を持たせてくれていた。あのたくさんのお土産の中に蜂蜜が紛れ込んでいても、何の不思議もない。
 その不思議な蜂蜜は、上の方はキラキラと茶色がかった黄金色に輝いていて、下の方は柔らかなクリーム色だった。スーパーで見かける蜂蜜は瓶の上から下まで茶色がかっているのに、我が家の蜂蜜はなぜだか色が違っていたのだ。なんとも不思議な蜂蜜だった。
 幼い私は、時々親の目を盗んで、その蜂蜜をこっそりスプーンで掬って舐めていた。正々堂々と許しを得て食べればいいものを、なぜかコソコソと食べていた。なんだかとても上等なもので、食べたら叱られるのではないかと思っていたからかもしれない。
 子供の力で蓋を開けるのは骨が折れた。誰かが使った後に、蜂蜜が蓋と瓶の間に挟まってしまったのだろうか。ガッチリ閉まってなかなか開かない。しかし、苦労した後に食べる蜂蜜が格別なのだ。上の方の黄金色の部分を掬って食べると、口一杯に甘さが広がる。子供心に「あぁ、美味しい」と思ったのを覚えている。いつものお菓子とは違う、少し特別な甘さだった。
 その特別な蜂蜜は、変わらず何年も同じところにあった。瓶の蓋は年々硬くなったが、私も大きくなり、知恵をつけて開けるコツを覚えた。幼い頃に記憶があった頃よりも蜂蜜の量は減っていたけれど、口に含むと変わらぬ味が蘇った。
 気がつけば、実家に住んでいた年月と、実家を出て生活するようになった年月が等しくなろうとしている。今も変わらずあの蜂蜜はそこにあるのだろうか。それとももう、流石になくなってしまっただろうか。蜂蜜に、過ぎ去った年月の想いを馳せる。自宅にある蜂蜜を、幼い頃のようにこっそりと舐めて、あの頃を懐かしく思い出してみようか。

 

(完)

 

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