はちみつ家 > 蜂蜜エッセイ

ミツバチと共に90年――

信州須坂 鈴木養蜂場

はちみつ家

Suzuki Bee Keeping

サイトマップ RSSフィード
〒382-0082 長野県須坂市大字須坂222-3

 

蜂蜜エッセイ応募作品

りんちゃんとパンケーキ

田道間ハヤシ

 

 小学校高学年のとき、りんちゃんという友達がいた。友達と呼んでいいのか、今でも分からないけれど、あの頃の彼女との関係を対外的に説明するのなら、友達になると思う。
 りんちゃんは可愛かった。髪が艶々で、流行りの服を着ていて、優しかった。当時ヘアアイロンなんてものを使ったことはなく、母親がスーパーで買ってきた服を着ていた私とは真逆の存在だった。
 そんな私達がなぜ「友達」だったかというと、母親同士がパート先が一緒で仲が良かったのだ。母親達は遅い時間に私達を家に一人にしておくのは気が引けたようで、けれど飲みにも行きたかったようで、連れて行かれていた。当然、母親同士で話すから、必然的に私とりんちゃんで話すことになってしまっていた。と言っても、りんちゃんは優しい。学校にいるときは仲の良い子と恋愛の話で盛り上がっているのをよく見かけたけれど、私にはそのような話はしてこなかった。私でもついていけそうな、学校の先生の話やテレビの話をしてくれていた。
会合が開かれるのは、大抵近所のファミレスだった。お酒とおつまみを安く注文出来たからだと思う。顔をいつもより赤くして話し込む母親達の横で、ピザやパスタなどの食事を頼み、最後に一皿のデザートを2人で分け合うのが私達の定番だった。
 あるとき、りんちゃんがメニュー表のパンケーキを指差し「これがいい」と言った。バターと蜂蜜が付いてくるだけの、シンプルなものだった。
 「蜂蜜苦手なんだよね」私が言うと、りんちゃんは「えぇっ」と声をあげた。彼女は蜂蜜が大好きだったらしい。
 「じゃあさ、りんが蜂蜜全部もらうから、バター全部使っていいよ」それなら、と思い、注文に了承した。
 私がトイレに行き戻ってくると、席にパンケーキが届いていた。既に半分に切られて、取り皿に分けられていた。
 「分けといた! こっちが蜂蜜かけたやつで、こっちがバター」
 そう言って差し出されたパンケーキをナイフで切り分け、口に運び……あれっ、と思った。甘かった。驚いた表情の私を見て、りんちゃんはいしし、と笑っていた。
 「ひっかかった~」いたずらっぽく笑った彼女の表情に、悪意のようなものは浮かんでいなかった。まるで仲の良い友達に向けるような笑顔だった。
 24歳になった現在、りんちゃんとは全く連絡を取っていない。SNSで名前を検索してみたこともあったが、ヒットしなかった。けれど、あの時感じた嬉しさは、今も鮮明に覚えている。
 あと、実はあの蜂蜜のパンケーキを口に含んだとき、違う意味でもあれっと思った。あれっ、蜂蜜、美味しいじゃん、と思った。いたずらに成功して喜んでいる彼女の手前、言えなかったけれど。
 それから私は蜂蜜を好きになり、今では家に常備している。
 地味な私にあのような笑顔を向けてくれて、蜂蜜の美味しさも教えてくれた。そんな彼女が今もどこかで幸せに過ごしていることを願いながら、今日も私は朝食の食パンに蜂蜜を塗る。

 

(完)

 

蜂蜜エッセイ一覧 =>

 

蜂蜜エッセイ

応募要項 =>

 

ニホンミツバチの蜂蜜

はちみつ家メニュー

鈴木養蜂場 はちみつ家/通販・販売サイト

Copyright (C) 2011-2024 Suzuki Bee Keeping All Rights Reserved.