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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

異世界への誘い

ガンダム

 

 「パパ、ハチミツおいしいね。」
 娘のあゆみがトースターで焼いた食パンにハチミツをのせたものをおいしそうに食べている。
 「おいしいね。」
 妻もそれに同調するように言う。
 ハチミツを食べると思い出すことがある。高校時代に友人と共に出かけた尾瀬である。私にとって初めての友人と一緒の旅行であった。尾瀬には一度小学生の頃、親と来たことがある。観光バスを利用したせいか乗り物酔いをしてしまったが、ハチミツを舐め、当時覚えたての尾瀬の歌にある通りの神秘的な風景を目の当たりにして、すっかり元気になったことを覚えている。尾瀬の美しさには、そしてハチミツの甘さには、不思議な力があるのだ。
 その尾瀬を今度は友人と一緒に歩いている。小学生の頃と変わらぬ風景に安心する。あの神秘的な光景が確かにそこに待ち受けていた。我々を出迎えてくれたのはハチだった。美しい水芭蕉を見に来たハチが道を案内してくれている。そんな錯覚に陥るほど我々に接近するハチ。非日常の世界を思わせる。異世界に紛れ込んだようだ。そのせいかハチに対して愛おしさは感じたが怖さは感じなかった。
 その、異世界を楽しむ少年もやがて大人になり父となる。当時、両親もこの異世界を私に味わわせ楽しませかったのではないか。
 改めて、目の前でハチミツを嬉しそうに食パンにかけて、そのパンをおいしそうに頬張るあゆみを眺める。今度は私があゆみをこの異世界へと誘う番である。そしてこの異世界にて出迎えてくれるであろうハチ達の戯れとあゆみが、美しい水芭蕉と共にどのような化学反応を見せるのか、楽しみだ。

 

(完)

 

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