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蜂蜜エッセイ応募作品

蜂蜜は甘え

阿部狐

 

 去年の私は、辛い料理をよく食べていた。白米には唐辛子を乗せて、ピザには何度もタバスコをかけた。だが、決して辛い物が好きだったわけではない。辛い物を食べられる人はカッコいいと思っていたのだ。これは子供じみた無鉄砲か、それとも大人じみた虚勢か。真実はモラトリアムの天秤のみぞ知る。
 さて、辛い物を食べられる人はカッコいいと思っているわけだから、対偶をとれば、カッコ悪い人は甘い物を食べていることになる。実際、それは正しい命題だと信じている。むしろそちらが本題だ。甘い物を食べている人はカッコ悪い。蜂蜜やドーナツといった甘い物を好む人は、唐辛子ではなく脂肪をのせているに違いないだろう。
 私の視界がバイアスのレンズに覆われているなんて、自分だって分かっている。自覚症状があるなら尚更たちが悪いのも分かっている。しかし、十八年で築き上げた常識の塔は「意識します」の一言で崩れ去るほど欠陥構造ではない。
 ところで、私には二歳年上の姉がいる。彼女は、家族の共同スペースに私物を散乱させたり、夜中に大音量で動画を見たりなど、がさつな人だ。エッセイのテーマが「家族への不満」だったならば、私の最優秀賞は固かっただろうに。
 なにかと粗雑な性格の姉だが、その性格の塔の一角に、好き嫌いが激しいというものがある。母が作った食事を「好みじゃない」と言ったり、私が好きな料理を目の前で否定されたり、本当に大したものだ。その好き嫌いは辛さも例外ではなく、甘口のカレーライスにすら蜂蜜をかけたりする。「それ甘口だぞ」と私が思う度に、茶色い液体が黄色と混ざり合っていく。
 今、茶色と黄色で汚いものを想像したあなたは正解だ。私の心情が、そういったものであると思ってくれればいい。
 姉はカレーを残すこともあり、私は男性として生まれたので、ときたま残飯処理を頼まれることがある。私は母の料理が大好きなので、それは一向に構わないのだが、蜂蜜に染められすぎたカレーを食べるのは、いささか勇気を要するものだ。ただでさえ、甘い物に得体の知れない悪意を向けているのに。給料が欲しいものだ。もちろん日給で。

 思春期特有の傲慢さか、それともがさつな姉への嫌悪か。蜂蜜はカッコ悪い人が食べるものだと思っていた。なぜ過去形にしたのかと問われれば、今年から大学に進学して一人暮らしを始めるからだと答える。思春期を終えて、姉と離れれば、少しは蜂蜜と向き合えるかもしれない。
 それまでは、まだ甘えだ。

 

(完)

 

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