三浦 雅行
大人になったいまも、夏になると思い出す出来事がある。
小学生の時、私は野球に没頭していた。友人たちと結成した弱小チームだったが、エースで大黒柱だった。五年生の夏休み、地域の野球大会に出場することになった。
一回戦でいきなり強豪のライバルチームとぶつかった。相手は格好のいいユニフォームを着ていて、バットもグローブも高級そうで、ヘルメットまであって、おっかなそうな監督もいた。彼らはにやにやと笑いながら私たちを見ていた。私たちはオレンジ色のゼッケンをつけ、阪神タイガースや読売ジャイアンツなど色 々な帽子を被っていた。
私たちは炎天下のグランドで、向かい合って礼をした。
寄せ集めだろうが、弱小チームと陰口を叩かれようが、私たちは負けたくなかった。全力でぶつかって、相手を見返してやりたかった。私たちだってやればできることを証明したかった。
ピッチャーの私は懸命に速球を投げ込んだ。
三振も取ったが、とんでもないエラーが出たり、大きな二塁打を打たれもした。なんとかスリーアウトになって、私はバッターボックスに立った。
相手ピッチャーは私の同級生だった。運動神経も抜群で女子の人気も高い。私は燃えた。ボールを弾き返して、見事なスリーベースを放った。
でも試合は完敗で、四回でコールド負けになった。
私たちは球場の日陰で言葉少なに座り込んだ。友人の母親がうなだれる私たちに声を掛けた。
「今日は頑張ったわね。みんなとっても素敵だった。全力で戦ったんだもん。はい、ご褒美にみんなでこれを食べてね」
大きなタッパーに詰まっていたのは、輪切りのレモンのハチミツ漬けだった。甘くて、酸っぱくて、私たちは夢中で食べた。指がハチミツでべとべとになって、指をしゃぶってみんなで笑った。
試合には惨敗したけど、私たちは誇らしかった。
いまでも時 々、思い出す。
試合に惨敗して、レモンのハチミツ漬けを食べて、幸せだった少年時代を。
(完)
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