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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

私とはちみつとASMR

ステキなポコちゃん

 

 私ははちみつが嫌いでした。
 それは小さい頃、ホットケーキを食べていた時のことです。
 私はいつものようにメープルシロップをかけようと、近くにあった小瓶からスプーンで掬ってホットケーキにかけました。
 「なんだかいつもより重くてねっとりしている気がする」
 そう思いながらも、冬だから固まっているのだとあまり気にせず口に入れました。
 すると、まるで野花を口に突っ込まれたかのような香りが鼻から抜けていきました。
 「なんだこれは!」
 私は驚き慄いてしまい、以来蜂蜜を口にすることはありませんでした。
そして十年の月日が流れたある日。私が動画サイトを閲覧していた時のことです。
 巷ではASMRというものが流行っており、私もその流行に呑まれていた人物の一人でした。
 ASMRとは、音を楽しむ動画のことで、耳かき風の音やマッサージ風の音など種類は様々です。
 そこで私は、「コムハニー」の咀嚼音を録音した動画を発見。
 何の気無しに見てみると、蜂蜜のあふれる「じゅわっ」という音や、蜂の巣の「サクッ」という音がたまらなく美味しそうだったのです。
 それ以来、私はコムハニーを食べたくて仕方がありませんでした。
 しかし私は一人暮らし。もし口に合わないとなると、残ったコムハニーがもったいない。
 そう尻込みして、気がつけば1年、2年と月日が過ぎ去りました。
 そんなある日、友人宅へ行った時のことです。
 何とそこには食べかけのコムハニーがあったのです。
 まるで無くし物が見つかったかのように、私の胸に支えていたモヤモヤがスッとなくなりました。
 私は友人に頼み、少し分けてもらいました。
 念願のコムハニー。はちみつ嫌いだった私の口に合うのか。
 恐る恐る口に運ぶと、あの日感じた野花が再び私の鼻を駆け抜けました。しかし、嫌悪感はありません。
 むしろ、程よい甘さと微かに感じる苦味、そして芳醇な香り。私はたった一口にして、蜂蜜の病みつきになりました。
 それから私はパンやケーキ、フライドチキンにもかけるほどのはちみつ好きに。
 少しのきっかけで人生は最も簡単に変わるものだと、私は思い知らされたのです。

 

(完)

 

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