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ミツバチと共に90年――

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蜂蜜エッセイ応募作品

ハチの分蜂

オレンジぴこ

 

 ハチミツの小瓶は、台所の引き出しにいつもある。直ぐに絞り出せるよう逆さまに立ててある。ショウガ酢に欠かせないアイテムだ。それとレモンのはちみつ漬けも好物で、つかり具合をたしかめるように、ようじで一輪つまむのが私の愉しみだ。だが、その甘い蜜を生産する「ミツバチ」君に、苦い思い出がある。
 それは20年近く前のこと、私は田舎で小さな薬局を開いていた。入口は国道を挟んで小高い山に面していた。店舗の裏は田んぼで、小川もあった。のどかな田園風景と言いたいところだが、「なんで、こんな場所を選んで開局してしまったのか…」と、後悔をしていた。隣のクリニックの患者を見込んで開業したのに、客は少なく、代わりにモグラやヘビが敷地に出没した。
 暇な日が続く小春日和の穏やかなある日、薬局の入口付近が数メートルに渡り、ミツバチの大軍に包囲された。慌てた私は、ハエ叩きと殺虫スプレーで退治しようとした。まるで、ヒッチコック映画の「鳥」に出てくるカラスの大群に襲撃を受けたような有様であった。私は手持ちの防虫ネット付麦わら帽子で、かろうじて顔を覆ったが、両手、両腕は反撃を受けた。夫が役場にハチ退治のSOS電話をしたが、職員の返答は「退治業者に依頼するように」とつれない対応であった。その日は仕事にならず、臨時休業とした。
 翌日、古老の患者にハチ襲撃事件を話題にすると、「そりゃー、ハチの分蜂とゆうて、新しい巣を作る行動じゃ。山のハチどもかもしれんし、近くに養蜂家がおるんかもよ」と教えてくれた。
 その後、ハチの分蜂に遭遇することはなかった。日当たりの良い薬局は、一時的にハチの遊び場に選定されたのかもと、思い返すと愉快な事件だった。
 昨今、ミツバチの個体数が減っていると聞く。自宅の庭で時折ミツバチをみかけると、頑張れとエールを送る。散歩時、ミツバチの絵が描かれた幼稚園バスをみかけると、その愛らしさにニンマリとする。
 ハチの分蜂事件以来、私はミツバチを日々の生活に溶け込んでいる「仲間」と想うようになった。

 

(完)

 

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