グンパツ
クマのプーさんは人気がある。フィギュアスケートの羽生選手に限らず、ぬいぐるみを抱えている人を見ることは珍しくない。我が家にも複数個ある。プーさんはなぜそんなに人気があるのか。
私がミルンの原作を読んだ時には、作者自身による素朴な線描画が小さく載っているだけで、あまり感銘を受けなかった。
ディズニーのアニメになってから爆発的人気を獲得したように思う。原作本とアニメとの決定的な違いは何だろう。
まずプーさんの姿がとても可愛く描かれたということがあるだろう。けれど、私には第一話の舞台になった木の洞の描写が最大の原因に思える。
蜂蜜の好きなプーさんが入り込んだのは夢のような場所だった。蜂蜜の海に浸るようにして食べているプーさんに、これ以上の幸福はないように見えた。
物語の中に食物の出てくる作品がいくつかあって、私はどれも好きだ。グリム童話のお菓子の家が出てくる『ヘンゼルとグレーテル』。中川李枝子・山脇百合子の絵本『ぐりとぐら』。差別的表現が問題で消えてしまったが、昔、坊やを追いかけてきた虎がぐるぐると走り回るうちにバターになってしまう話。落語の『饅頭こわい』も。どれもその世界に入り込んで、登場人物と一緒に味わってみたくなる。
ではプーさんが味わったものが蜂蜜でなくてもよかったか。やはり蜂蜜でなければならなかっただろう。
大学に入ってから初めて喫茶店というものに入った。どう振舞えばよいか分からず、サークルの先輩がコーヒーを頼むと私も頼み、先輩がホットケーキを選ぶと私も頼んだ。小さな器に入った褐色の液体を回し掛けたアツアツのホットケーキを一口食べて、びっくりした。ものすごくおいしかった。それまでは砂糖を溶かしたカラメルでしか食べたことがなかったのだ。カラメルとは比較にならない芳香と甘み。けれど、内心、このねばねばした液体は何だろうと思っていた。やがて、蜂蜜だったのだと知った。
今では時々口にすることができる。栄養学や薬理学上の効用もいろいろあるのを知っているが、そういうものにかかわらずおいしいから食べている。
アルコールに弱いので長らく知らなかったが、蜂蜜酒というものがあるそうだし、カクテルの材料にも使われているようだ。
上品な芳香と甘み。これは幸せの味だと思う。
プーさんの物語が好まれるのは、大好きな蜂蜜の海に浸っているのが好ましく感じられるからではないか。それがクマのプーさんの人気の元だと思う。
(完)
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