三郎
「お花いっぱい、なんだか幸せ!」と、久しぶりに訪れた孫娘が我が家の庭に感嘆の声。「ありがとね」と頬ずりしながら、この子もまた『花の子ルンルン』であれと願う。
子供の頃、山麓の草原に春から夏にかけて養蜂家がたくさんの蜜蜂の巣箱を置いた。春には田んぼに一面のレンゲ草、初夏の林にはニセアカシアの白い花が咲く私のふる里でそれは毎年繰り返される光景だった。
ある日、苺畑に行く途中で私は一人の女の子と出会った。巣箱の脇に立つ女の子のブラウスのシミを見るなり、私は瞬時に合点したのだった。私の苺を盗って食べているのはこの子に違いない……と。とは言え、二人はいつしか我が家の畑で一緒に苺を食べる仲になっていた。性に目覚める前の、少年とも言えない私にとってその真っ黒な瞳とお洒落なポニーテールは天使に見えて、とても泥棒には扱えなかったのだ。
やがて、別れの日、大型トラックに次から次へと載せられる巣箱を眺める私に、「これ、お父さんがあげなさいって」と、女の子が上目づかいで瓶を差し出した。
私はこの年齢でアニメ『花の子ルンルン』が好きで、孫にもDVDを買ってあげた。
幸せになれる七色の花探しの旅に出るルンルン……ふだんはお転婆だが、正装するとマイフェアレディ―のように華麗になる……他人のために心を砕く優しさと行動力……ルンルンを観ながら、あの日女の子からもらった蜂蜜の甘さを私は思い出すのだ。
そして、その日は花の周りを飛び交う蜜蜂を指さしながら、孫に教訓を垂れる私。
「蜜蜂さんは花さんから蜜を泥棒するんだよ。でも、花さんは大歓迎なんだ。なんでか、分かる?――」
(完)
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