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蜂蜜エッセイ応募作品

坂の下の蜂蜜屋さん

漆原 香里

 

 私がまだ小学生の頃だ。大きな瓶詰めの蜂蜜が送られてきた事があった。送り主は群馬県の祖父だ。
 小さい頃病弱だった私は、祖父の家に遊びに行くと必ず風邪を拗らせた。そんな私を祖父はとても心配して、蜂蜜を送ってきてくれたのだった。母に「牛乳に混ぜて飲めば?」と言われ、毎日飲んでいる牛乳に混ぜて飲んだが、溶けきれない蜂蜜が底に残ったりして飲みづらいのが嫌だった。だが祖父の優しい気持ちを邪険にする事は出来ず、「蜂蜜有難う。咳も余り出なくなったよ。」と、お礼の電話をした。電話口の祖父は嬉しそうに「それは良かった。またそのうち送ってあげるからね。」と言っていた。その言葉通り瓶詰の蜂蜜が送られてきたが、余り減らないまま戸棚にひっそり仕舞われた。
 中学に上がり、英語スピーチコンテストに出場する事になった。毎日練習を重ねていたが、本番五日前になって喉の調子が悪くなった。
 「どうしよう!このままだと本番に声が出なくなるかもしれない!」
 焦った私は友達に相談した。すると、「水あめや蜂蜜を飲んで治した歌手がいるらしいよ。」と教えてくれた。私は戸棚に仕舞ってある、半分固まりかけた蜂蜜を久しぶりに取り出した。スプーンに大盛り一杯の蜂蜜とお湯を注ぎ、その日から朝晩と飲み始めた。
 そのお陰か本番前日には喉の違和感は全く無くなった。しかも全校で2位と言う順位を収めた。私は嬉しくてその日の夜、「お祖父ちゃんの蜂蜜のお陰で英語コンクールが成功したよ。」と、報告した。祖父は「それは良かった。もっと送ってあげたいけど、お祖父ちゃんの足が余り元気じゃなくて、お店まで行けそうにないんだ。」と言った。私はその言葉を聞いてびっくりした。てっきり電話一本でお店に頼んでいると思ったのだ。
 「お祖父ちゃん、わざわざあの長い坂道を下りてお店に行っていたの?」
 「そうだよ。いつも特別値段で売ってくれるから、お礼がてらお店に伺っていたんだよ。」
 痩せているお祖父ちゃんが、ゆっくりゆっくり歩きながら坂を下りてお店に向かう姿を想像したら、私は電話口で泣きそうになってしまった。そして祖父に対する自分の不義理が恥ずかしくなった。
 その後、私は英語コンクールの他にピアノ発表会や、何か大きな試験の前にも必ず蜂蜜を食した。「験を担ぐ」意味合いもあるが、祖父の思いを大事にしたかったからだ。
 祖父は私が大学1年の時に亡くなったが、今でも瓶詰蜂蜜を見ると、祖父の優しい気持ちを思い出し涙が出る。

 

(完)

 

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