はちみつラン
年に2回、42・195キロを走る長旅をしている。スタート前の胸の高まり、わくわく感は格別だ。元気で完走するぞと心に誓う。
それなのに、毎回半分を過ぎた23キロ地点あたりになると「足も痛くなってきたし、疲れたならもうやめてもいいんだよ」という、あまーい悪魔のささやきがどこからか聞こえてくる。
ぐぬぬー。止まればラクになるのは重々わかっている。けれどせっかくここまで頑張ったんだからそうはなるものかと、ポケットから取り出すのは相棒でありお守りでもある、スティックタイプのはちみつ。ここぞというときの『力水』ならぬ『力はちみつ』を口にちゅるっと含むのだ。
うまい!はちみつの糖分が、あっという間に枯渇した体全体に沁みわたる。心まで上向きになってきた。
はちみつはすごいとお辞儀をしながら、ちゅーちゅーして足を運ぶ。給水所に置かれたものも手に取るが、私には秘密兵器のはちみつがいちばんだ。
元気になったらどんどん楽しくなってきた。美しいけしきや応援の小旗、響き渡る和太鼓やブラスバンドの音も、しっかりと目と耳に焼き付けられる余裕も出てくる。
そうこうしていくうち残りはあと5キロ。しかしここからがめっぽう長い。またもや心が折れそう。
で、ここで秘密兵器の再登場だ。スティックの袋を懸命に手でちぎって口へ。疲労困憊の身ではうまく吸えない。まるで赤ちゃんか。手を握って押し出す私。何とか飲んだ。走った。そしてゴール!
ふう。今回も、はちみつで長旅を乗り切れた。
這う這うの体で更衣室に行き、着替えより、まずは保存容器をパカっと開けレモンのはちみつ漬けをむしゃむしゃ食べる。レモン風味になったはちみつの汁は、お湯で溶かして飲み物に。のどを鳴らして一気飲みだ。
達成感に満ち溢れ、先ほどまであんなに苦しんだというのに、次はどこを走ろうかとあれこれもくろむ単純な私。
そんなふうに前向きになれるのは、秘密兵器のはちみつがあるから。私の長旅はこれからも続くのである。
(完)
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