みさき 夕
幼少の頃、甘いものが大好きだった私は酸味のあるヨーグルトが苦手だった。そんな時に両親が買ってきたのがギリシャヨーグルトだった。
〈ギリシャヨーグルトは粘度が高く、スプーンですくって逆さまにひっくり返しても落ちない。〉父はそう説明しながら、私にスプーンを渡してくる。私はおそるおそるまっさらなヨーグルトの表面にスプーンを突き立て、ひとすくいしてスプーンをくるっと回す。するとどうだろうか、確かにスプーンにヨーグルトがぴたりと張り付いている。子供心にそれが面白くてたまらず、私は夢中になって、何回もスプーンをひっくり返した。気のすむまで遊び倒した後、私は重大な問題に気がついた。私はヨーグルトが苦手で食べられないのだ。
しかし、食べ物で遊んでおいて、それを食べないのは良くないことだと幼い私でも理解している。渋々、ヨーグルトを少し舐める。やっぱり、酸っぱい……。ついさっきまで、最高の遊び相手であった〝それ〟は私を苦しめる憎き敵に成り下がったのだ。目の前に対峙しているヨーグルトとにらめっこしていると、父が『はちみつ』と印字された小さな容器を持ってきた。
「それ、どうするの?」
「蜂蜜をギリシャヨーグルトに混ぜるとな、甘くておいしくなるんだよ。」
そう言いいいながら、父はヨーグルトに蜂蜜をまんべんなくかける。確かに、黄金色でキラキラした蜂蜜が真っ白な背景に映えてきれいだ。けれども、蜂蜜をかけただけでそんなに味が変わるものだろうか。半信半疑で、特に蜂蜜がたっぷりとついている部分に口をつける。
これは……。感動して言葉が出ない。
さっきまでただ酸っぱかっただけの味が、蜂蜜特有の甘みが加わったことにより、甘さの中にほどよい酸味が効いている。とても美味しい。ヨーグルトに最初に蜂蜜をかけた人に何か賞を送っても許されるだろう。結局私は、ヨーグルトを食べきり、さらにはおかわりまで要求した。
あの時の蜂蜜は、苦手なものが大好きなものに変わる魔法のアイテムであり、紛れもなくヒーローであった。しばらくは蜂蜜ヨーグルトが自分の中のマイブームになり、一か月ほどそれを食べ続けた。蜂蜜を食べ過ぎて、喉に甘さが焼き付いているような感覚に陥るほどだった。
しばらくしてマイブームが過ぎ去り、久しぶりに蜂蜜の容器を開けたときには、蜂蜜はすっかり結晶化してしまっていた。見るも無残な蜂蜜の姿に、ショックを受けて固まっていた私に父は、蜂蜜を別の皿に移してレンジで加熱すれば良いのだと教えてくれた。何とか元の見慣れた姿に戻り、安心した私は、少しだけくすねておいた結晶を口の中で噛み砕きながら、これはこれで悪くないなと感じた。蜂蜜を加熱するという方法を新しく覚えた私には、しばらく蜂蜜トーストのマイブームが到来することとなった。
(完)
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